第391話あゆの決意

「えっ!?せ、先輩!?」


「ど、どうだあゆ・・・!」


 ちょっと自意識過剰かと思ったけどやっぱりあゆは少なからず動揺してる。多分俺が自分で自分のことを殴ったことを心配してくれてるんだろうけど、その心配に対して俺が罪悪感を覚える必要はない。むしろ利用すべき心配だ。

 なぜなら、おそらくだけどあゆの考えでは自分が傷つける分にはいいけど、自分以外が俺のことを傷つけるのが嫌、それは初音とのことでもわかることだ。

 そして、それは俺自身も例外じゃない───というのが自意識過剰だと思ったけど、これは成功だ。


「な、何してるんですか〜!先輩を傷つけていいのは私だけなのにぃ〜!」


 そう言ってあゆは子供のように地面に倒れ込み、駄々をこねるように何回転もしている。


「あぁぁ、先輩の素敵なお顔が〜、顔だけは傷つけないって決めてたのに〜!」


 そんなことを言われたって「ああ、あゆは優しいな」とはならない。


「わかったかあゆ!俺だっていつまでも手の平で転がされるだけじゃないってことだ!」


「・・・反抗期ってことですかぁ・・・」


 反抗期で片付けられたくはなかったけど俺が反抗する意思があることを今回のことで示せたのならいいだろう。


「でも───その代償は高くつきますよ?」


「ぇっ・・・」


 ・・・俺は得意げになっていたが、選択を間違えたことを悟る。こんなに堂々とあゆを挑発するようなことをしなくても良かったのに、俺は何をしてるんだ・・・おかげで今あゆは見たこともないような顔をしている。

 初めてみるあゆの殺気・・・とは少し違うけど、闇を感じる顔持ちだ。


「あ、あゆ、そ、その、変に挑発して悪かっ────」


「もう〜、先輩冗談きついですよ〜」


 よ、良かった、いつもの感じだ。


「今更謝ったって許すわけないじゃないですかぁ〜」


 平静を装いながら怒ってるっていう一番怖いやつだ!


「・・・白雪先輩に唆されたってだけなら先輩に直接的な害を与えるつもりはなかったのに〜、先輩から始めたことですから、私が何をしたって怒りませんよね〜」


 口調はいつもと同じだけど、纏っている雰囲気はいつもとは別物だ。


「じゃ、そろそろ学校行きましょうか、車椅子引いてあげますから」


「えっ、い、いいのか?」


 てっきり学校に行くことも水に流れてしまったと思ってた。


「いいですよ、もう先輩と白雪先輩を社会恋愛的に潰すって決めましたから」


 あゆは元の性格からは考えられないほど低いテンションでそう言い放ち、俺に学校の鞄を持たせ、俺は車椅子に乗り、あゆは俺の車椅子を引いて、そのまま通学路を通って学校に向かった。

 ・・・学校につくまでの間、俺はいつあゆに車椅子を倒されてもおかしくない空気だったため、ずっと心臓がバクバク鳴っていたが、特に何事もなく学校に着いた。

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