第380話結愛の吐露

「ゆ、結愛・・・そ、その・・・昨日は、わ、悪かった」


「ううん、私は嬉しいよ?」


「そ、そうか・・・」


 な、なんていうか・・・だんだん結愛のことを普通だと思えてきたけど、俺は決して過去を忘れることはしない。今まで忘れようとしたせいで何度も痛い目に遭ってるからだ。

 だから今ちょっと結愛が優しく見えたとしても、過去に誘拐されたり薬を打たれたことを忘れてはいけない。


「そーちゃん、その、ね?私、今まで変に焦ってたよね?」


「・・・え?」


 ここで結愛から驚きの言葉が出る。


「そーちゃんに白雪さんみたいな素敵な彼女さんがいたから、ちょっと焦ってたのかも」


 ん??????白雪さん???????素敵な彼女さん???????


「だから、これからはゆっくりとそーちゃんと距離を詰めるね?」


「・・・・・・」


 だめだ、全く頭に入ってこない。結愛は頭でも打ったのか?


「ちょっと私、顔洗ってくるね」


 そう言って部屋から出て行った。・・・まあ俺も寝起きだし、顔を洗うか。

 俺は車椅子に座るためにちょっとだけ結愛から遅れ、洗面所に向かった。

 そして、洗面所入口手前ぐらいで、洗面所から声が聞こえてきた。


「こほっ、こほっ、クシュンッ!」


 そこには咳払いとか咳を繰り返してる結愛の姿があった。


「白雪さんとか、素敵な彼女とか・・・こほっ、こほっ、自分で言ってて本当に気持ち悪い、あんな虫死ねばいいのに・・・」


 えっ・・・


「でもこれも押してだめなら引いてみろ作戦のため・・・!」


 ちょ、ちょっと待て、なんだそれ。っていうことは、さっき変に初音に対してさん付けしたり、焦らず距離を詰めるとか言ってたのも演技ってことか・・・

 不意打ちのことで動揺してたのは演技じゃないんだろうけどそれにしたってさっきまでの俺の普通の女の子を相手にしていた感覚を返して欲しい。

 ・・・そういえば初音も前にそんなこと言ってた気がするな。


「一刻も早くそーちゃんからあの虫を引き剥がさないと・・・!・・・え、あ、そーちゃん・・・?」


 どうやら俺の存在に気づいたらしい。


「・・・ごめんね、実はさっきの嘘なの、本当は全く譲る気なんてないから」


「あ・・・いや・・・わかった」


 俺は一言そう返し、自分の部屋に戻った。・・・結局普通の女の子なんて俺の近くには存在しないのか・・・久しぶりに月愛と話したいな。


「・・・あれ、そういえばあゆはどこに行ったんだ?」


 さっき結愛と話してた途中からそういえば姿がなかったな。てっきり洗面所とかトイレとかかと思ってたけど、そうではないみたいだ。

 俺がそう考えていると、玄関から声がした。


「ただいま、そーくん」


「・・・え!?」


 俺はすぐに玄関に出向き、初音と向き合った。


「は、初音、入ってこれたのか」


 その隣にはあゆがいて、どうやらあゆが開けたみたいだ。


「よ、よかった・・・」


 これでなんとか防衛成功っていうことで───


「そーくん、ちょっと色々話があるんだけど」


「・・・え?」


「この女に色々聞いて、それが本当か一つ一つ教えて?」


「・・・・・・」


 俺はチラッとあゆの方に視線を送った。するとあゆは「頑張ってください!」みたいな感じの表情で俺のことを見ている。・・・いや!なんてことをしてくれたんだ!やばい、これは本当に殺される!


「そ、その前にトイレに────」


「そーくん、お話ししようね」


 俺は初音に無理やり引きずられてリビングの椅子に初音と向かい合った。

 ・・・こうして本来なら感動の再会になるはずが、またしてもあゆのせいで最悪の展開となってしまった。

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