第371話結愛とお風呂

「・・・じゃあ、背中洗ってあげるね?」


「あ、ありがとう・・・」


 俺たちは仰々しくシャワーの前に行き、俺はシャワーチェアに座って、結愛に任せることにした。


`シャー`


 結愛はシャワーを流して、俺の背中に水を流した。やがてシャワーの水を止め、ボディーソープを手に取って、音だけで何をしてるのかわかるようなぐらい音が鳴っていた。・・・初音の場合はちょっとしか音が聞こえなかったけど、結愛の場合は・・・なんていうか、ボリュームが違うっていうか、そんな感じだから何をしようとしてるのかよくわかるな。


「ゆ、結愛・・・?」


「ん?なに?」


「・・・それはやめないか・・・?昔もそんなことしてなかったし・・・」


「昔はするための胸がなかったもん」


 そんなことを言ってるんじゃないんだけど・・・やがて結愛はボディーソープを塗り終わったのか、俺の背中に二つの大きな胸が密着している。そして、それを上下に移動させ、俺の背中を洗っている。


「んっ、んっ・・・」


 変な声をあげるのはやめていただきたい。


「ど、どう?こんなのあの虫じゃできないでしょ?」


 た、確かに初音にはこんなことはできない。


「そーちゃんが私と恋人になりたくない理由ってなんなのかな?」


 結愛が潮らしく聞いてきた。これはちゃんと答えないとだめだ。


「もう俺には恋人がいるから────」


「それは恋人になりたくない理由じゃなくてならない理由でしょ?私が聞いてるのはなりたくない理由はなんなのかなってこと」


「な、なりたくない理由・・・?」


「うん、だってもし私と恋人になれない理由がもう他に恋人がいるからってことなら、私と恋人になりたくない理由の方を解消しちゃえばそれも逆転するでしょ?そーちゃんがずっと言ってるのは形式的にはなれないってことなの、だったら感情的にはどうなの?恋愛って形式なんかより感情でするものでしょ?」


 う、うーん・・・そう言われると非常に困る。結愛と恋人になりたくない・・・理由?確かに今までもう初音っていう彼女がいるから結愛とは恋人になれないって否定してきたけどそれ以外に理由はあるのか?

 結愛はおかしなところもあるけど、それは初音だって同じだし、基本的には優しい。


「・・・・・・」


 わ、わからない。今まで誤魔化してきた罰が下っている。結愛と恋人になれない理由しかわからない。


「・・・わからない?」


「う、うん・・・」


「・・・今すぐ答えを出してとは言わないけど、ちょっと期間を空けてもその答えが出なかったら、多分そーちゃんは私と恋人になりたくないんじゃなくてなれないだけだと思うの」


 確かに期間を空けてもわからないなら、それはそういうことなんだろう。


「だから・・・その時はもう一度考え直して欲しいの、最悪の場合浮気でもいいから」


「いや、それはだめだろ!」


「でも、このまま膠着してても意味ないし、それならいっそのこと恋人になってあの虫を落とすことの方が大事、そうしたら私とそーちゃんでちゃんとした恋人になれるし」


 今まで浮気に対してあんなに否定的だった結愛がここまでいうとは・・・これは本気、なんだろうな。


「わかった、その時は俺も誤魔化さず真剣に考える」


「・・・うん」


「・・・・・・」


 結愛は、こんな重要な話をしているのにも関わらず、ずっと俺の背中で胸を上下にしている。結愛としては体の一部っていうだけの認識なのかもしれないけど俺からしたら動揺しまくる要素でしかない。


「じゃあ、そろそろ・・・腫れてるかどうか確認してあげないとね」


「えっ・・・い、いや!も、もう着替える時に自分で確認したから!だ、大丈夫だ!」


「そんなこと言って私に気を遣ってくれてるだけでしょ?いいよ、見せて」


 気を遣うとかじゃなくて本当に腫れてなんかないし、それ以外の理由でも自分の秘部・・・を他人に易々となんて見せたくない!


「ほ、本当に大丈夫だ!」


「もう!隠さなくていいから!」


 そう言って結愛は後ろから無理やり俺の腰に巻いているタオルの中に手を入れた。・・・前の。


「ちょっ・・・!」


 そして結愛は的確になんというか・・・本体というのか、には触れず、その腫れているかもしれない部分だけを的確に触って見せた。


`ふにふに``ころころ`


 結愛は俺のそこを軽く揉んでみたりころころ転がしたりしてみせた。


「お、おい!も、もういいだろ!」


「・・・こ、これが・・・そーちゃんの・・・」


 俺が無理やり手で引き剥がそうとするも、結愛の腕の力は尋常じゃなく、全然引き剥がせない。なんで手には全然力が入ってないのに腕だけこんなに力が入ってるんだ、こんなの人間の芸当じゃない。


「ほ、本当に昔とは違うんだね・・・この中にあるものを一つでもいいから注いでくれたらなぁ・・・」


「・・・・・・」


 俺は本当は聞こえてたけど何も聞こえてないと自分を言い聞かせた。


「・・・ん?」


 結愛がちょっとだけ疑問の声を上げ、少しの間だけ、お風呂は沈黙で包まれた。


「・・・よく手に感覚を集中すると、中で動いてるのがわかるね・・・ここで尊ぶべきものが作られてるんだね・・・」


 は、恥ずか死ねる!今なら本当に恥ずかしいという感情だけで死ぬことも可能だと思う。


`もみもみ`


「ひぁっ」


 結愛が俺のそこを変な触り方をした。


「・・・気持ちいいの?」


「よ、よくないから離せ!」


 俺がそう言うも、結愛は手を止めない。・・・しょ、正直に言うと普通に気持ちいい。マッサージされてる気分だ。


「ぁっ」


「・・・・・・」


「そ、そろそろ本当に・・・」


 結愛はそっと手を離してくれた。引き際は弁えているらしい。その後俺は自分の体の前の方を洗った。


「じゃあ次はそーちゃんが私のこと背中だけでもいいから洗ってくれる︎?」


「えっ、む、昔そんなことして───たか・・・」


 昔の俺を恨むことにしよう。俺はのそのそとボディーソープを手に取って結愛の背中を洗った。


「ひゃっ」


「変な声をあげるな!」


 そして俺たちはなんと言っていいのかわからない空気のまま、お風呂を後にした。

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