第369話結愛は優しい
俺が心の中で助けを望んでいると`バタン`と勢いよく俺の部屋のドアが開いた。は、初音が助けに来てくれたのか!?
俺はそう思ってそのドアの方を見ると────
「そーちゃん!大丈夫!?」
「ゆ、結愛!?」
そ、そうか、初音は今この家にはいないんだった。こういう時に助けてくれるのは大抵初音だったから初音だと思ってしまった。
「色々お手入れしてたらそーちゃんの部屋からすごい声聞こえてきたから・・・」
そ、そうか、それで来てくれたのか。あゆにはない優しさだ。・・・っていうかあゆに優しさなんてあるのか疑問だ。
「で、どうしたの?」
結愛が俺の顔を心配そうにしながら覗き込んできた。俺はまだ蹲ったままの体勢だった。・・・どう説明しよう、流石に男性の急所をデコピンされて悶え苦しんでる、とは言えないよな・・・
「え、えーっと、実は────」
「男の子の急所軽くデコピンしただけで悶えてるんですよ〜、面白いですからえ〜っと、結愛先輩?もやって見てくださいよ〜」
「・・・え、男の子の急所って・・・」
結愛は俺の顔から視線を俺の下の方に移していった。・・・なんか恥ずかしい。
「ま、まさか・・・え?」
「でも本当に軽くデコピンしただけなんですよぉ〜?それなのに────
`ドンッ`
「───っ」
「・・・え?」
いつの間にか結愛があゆの胸ぐらを掴んで部屋の隅にあるベッドの壁に押し当てていた。流石のあゆも完全に油断していたのか、呆気に取られている様子だった。
「そーちゃんの、え?何?急所って・・・子種を製造する場所のことだよね?そんなところを?なに?デコピン?」
結愛は怒ったようにとうとう左手を首に移動させようとしたが、あゆがそれを両手で止めた。
「けほっ、けほっ・・・み、見た目にそぐわず結構腕力あるんですね〜・・・」
あゆも余裕そうな感じは出してるけど、客観的に見ると普通にやばそうだ。結愛はそんなあゆの言葉など聞いていないみたいだった。・・・いや、聞こえてないのかもしれない。
「もしそれでそーちゃんの子種製造ができなくなったらどう責任取るの?世界の宝どころじゃないものがなくなるんだよ?」
いや・・・うん。なんか大げさすぎる気がするって言うのと子種を連呼しないで欲しい・・・でも庇ってくれてるのは純粋に嬉しい。いつもの俺ならここで結愛を止めてただろうけど、首は締まってないし、あゆには反省もして欲しいのでまだ何も言わないことにした。
「だ、だから軽くですってばぁ〜、先輩が大げさなんですよ〜・・・」
「大げさ?筋肉がなくて薄皮と管一枚で痛覚があるなら痛くて当たり前でしょ?そんなことも想像できないの?」
「・・・・・・」
こうしてみると結愛って本当に優しいな。前も俺のことを殺すとか言ってたけど、初音に結愛には俺のことを殺せないとか見抜かれてたり・・・本当に優しいと言うことがよくわかる。なんというか心強い。初音とはまた違った、俺に寄り添うような優しさだ。
「ゆ、結愛先輩だって女なんだから、何を言っても可哀想な人に同情してるようにしか聞こえません、よっ・・・?」
苦しそうにしながらも、あゆは挑発をやめない。本当に口数が無尽蔵だな。初音、結愛、霧響・・・下手したら師匠よりも口が回るかもしれない。そろそろあゆの腕の力が弱まってきている。
「ゆ、結愛!い、一旦手を離そう」
「・・・そーちゃんがそう言うなら・・・」
そう言って結愛は手を離した。あゆは苦しそうにしながらも言った。
「わ、わかりました、は、反省しましたから、もうしませんごめんなさい」
あゆが珍しく謝った。反省できるところはちゃんと反省できるみたいだ。
「・・・次したら殺すから」
そう言ってあゆは俺の方に駆け寄ってきた。
「そーちゃん大丈夫?痛くない?」
「も、もう大丈夫だ」
・・・それにしても意外だったな。初音はあゆに押されてた印象だけど結愛はあゆに勝てるのか・・・今回の件は完封勝ちとみていいだろう。
「・・・腫れてるかもしれないから、ちょっとお風呂入って確認しよ?」
「・・・え?は、腫れてるって・・・ほ、本当に大丈夫だ」
「だめだよ!もしかしたら今気づかないと手遅れになるかもしれないんだよ!?」
「うっ・・・」
これがさっきまでの結愛の優しさと同じものだと考えるととてもじゃないけど断るなんてできない・・・
「わ、わかった、じゃあ、お風呂入るか・・・」
「うん♪」
「・・・あっ、私は反省として本当に大人しくしてるので、お気にせず入っちゃってください」
・・・本当なのかはわからないけど、もし本当に何もせず大人しくしてるなら反省したとみてもいいかもしれない。これは大きな分岐だ。あゆが反省できる子なのかどうか、反省できるならまだ希望はあるけど反省できないなら本当にどうにかしないといけない。
・・・ちょっとデコピンされただけで大げさと思うかもしれないけど、俺からしたら本気で痛がってるのにそれを笑いながら見るあゆは本当に危険な存在に見えた。俺はそんなことを考えながら、結愛と一緒に脱衣所に向かった。
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