第363話結愛の怪訝

 俺は自分の部屋を出て、キッチンに直行しようとしたが、そうそう簡単に物事が進むわけもなく、俺の部屋の前で待っていた結愛に話しかけられてしまう。


「そーちゃん、電話相手の相手女だった?女だったなら名前だけ教えてもらってもいいかな?」


 早速、だな・・・普通こういう時ってどんな電話内容だったのかとかそれはなんとなく想像がついてたから聞いてこないにしてもとりあえず「どうだった?」みたいなことを言ってくるのが無難だろう。

 間違いなく第一声が「電話相手の相手女だった?」になるのは絶対におかしい。あと名前だけ教えるとかって言っても絶対に何かしでかしそうだ。


「女、女性っていうか・・・担任の先生だった」


 本当は初音からだったけど、担任の先生の方が信憑性が高くなるはずだ。担任の先生である七海先生は女性だけど、担任の先生という信憑性で初音と電話していたことを悟られない方が大事だ。


「あの女ね・・・まあ、あいつなら抜けてそうだし大丈夫だと思うけど、一応警戒対象にしとかないとね」


 抜けてる、か。俺はふと前に恋心ではなく依存だと言われた時のことを思い出す。あの時は真面目な感じ、というか色々と感じさせるものがあった。

 最初に転校してきた時も七海先生はなんか真面目な先生を演じてたけど、その演じてるなんていうのとは雰囲気が少し違ったような気がする。


「・・・・・・」


 まあ、どちみち普段が抜けてそうなことに変わりはない。


「ところでそーちゃん、さっきの話なんだけど・・・ギリギリってどこまでやったの?正直に話して?」


「えっ・・・そ、それは・・・」


 その話題はできるだけ切り返されたくない話題だ。あとやっぱり当然のように嘘だとバレていたのか。


「大丈夫、仮にちょっとでも何かしてたとしてもあの虫がそーちゃんの気持ちを考えずに無理やりやったことだから、初めてにはカウントしないよ?」


 結愛の中には俺と初音が相思相愛という考え方は最初からないらしい。でも・・・あれはどうなんだ?最初は無理やりだったけど最後の最後で俺は初音を求めてたというか・・・いやいやいや、寸止めされたんだ。求める求めない以前の問題で、これは人間としてごく普通のことだ。


「ほ、本当に何もしてない、ギリギリっていうのは・・・言葉の綾だ」


 やっぱり他人に性的な行為の話をベラベラとするのは俺の倫理に反する。


「・・・そこまで隠すなんて、むしろ怪しいよ?」


 結愛が俺の顔を覗き込むように言った。


「まっ♪この20日の間で私とそーちゃんは初めてを遂げるから、初めてさえやってないなら、許してあげる❤︎じゃあ私ちょっとお顔洗ってくるね〜」


 そう言って結愛は洗面所の方に向かった。よし!あとはこのままキッチンに向かうだけだ!

 俺はできる限りの全速力でキッチンに向かった。これでようやく食料を────と、思うのも束の間。そこにはあゆの姿があった。


「あっ、せんぱ〜い、これから食料を高いところに置こうとしてるところなんですよ〜」


「た、高いところ・・・?なんでそんなことを・・・?」


「とぼけなくてもいいですよ〜、食料取るためにここに来たんですよね?じゃないとここにそんな全速力で来る意味なんてありませんし〜、だから車椅子じゃ届かないところに食料を置くんですよ〜」


「・・・・・・」


 読みが深いなんてレベルじゃない、怪物だ・・・

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