第362話初音からの伝言

「は、初音?」


「うん、あいつらに鍵を閉められたせいで中に入れないの・・・」


 な、なるほど・・・でも表示は学校になってたけど・・・そうか!あゆとか結愛が見てると思ったから名前を『初音』から『学校』に変えたのか。

 俺は最近学校を長期休んでたから一応学校から電話がかかってくる理由もある、それを見越してか。


「そ、それで、俺はどうしたらいいんだ?」


「とりあえずこの電話終わったらキッチンに向かって?」


「キッチン・・・?なんで?」


「キッチンの冷凍庫の奥の方にかなり冷却してる包丁があるから、その包丁でなんとかあいつら2人を不意打ちで刺して!」


 待て待て待て、普通に強引な方法だった。そんなことできるわけがない。かといって俺から外に出ようとしてもあの2人は見逃さないだろう。ましてや車椅子なんて動くだけでも音が鳴るのに。でもそれは・・・


「普通に犯罪だろ!」


「大丈夫!監視カメラにもあいつらが無理やり家の中に入ったのはわかってるんだから、この場合は正当防衛で賄えるよ!」


「そ、そういう問題じゃなくて・・・」


 気持ち的な問題でそんなことできるは初音とかそういうタイプの限られた人間だけだ。俺にそんなことはできない。


「・・・今があいつらを消す絶好のチャンスなんだよ?今なら殺しても正当防衛・・・最悪の場合過剰防衛になったとしても私が無理やり追い出されたのが監視カメラに残ってるんだからちょっとの間保護観察になるだけ、それで今後一生邪魔になる2人を消せるなら良いと思わない?」


 いや、色々と文章を並べられても全く良いとは思えない。


「まあ、そーくんが何もしなくてもあいつらは時期にその家から出てくるだろうけどね」


「・・・え?なんでだ?」


 思わず聞き返してしまう。そんな方法があるなら俺は何もしなくて良いんじゃないかと思ったからだ。


「あいつら目算で15日か20日分の食料を持ってたみたいだけど、追い出される瞬間にその袋だけ奪ったの、咄嗟だったからそのぐらいしかできなかったけど」


「な、なるほど・・・」


 20日分の食料って・・・災害対策じゃないのにすごいな。


「でも家の中にも元々あと2日分ぐらいんの食料はあるから、私はあと2日間ぐらいこの家の前でテント貼って見張っとくね」


「テント!?」


 家の前にテント貼るって・・・


「だから、そーくん。あいつらのこと刺せないなら何されても絶対に何もしちゃだめだよ?特にえっちなことは」


「・・・どこからが、その・・・アウトなんだ?」


「そうだね、目線合わせるのからかな」


 日常会話すらままならない。でも確かに目だけでもそういう気分にさせられる可能性はある、十分に注意しよう。


「あとそーくん、女は雰囲気で興奮するから、注意してね」


 それは絶対に嘘だろ・・・雰囲気で興奮するって、少なくとも初音とか結愛とかあゆは例外だ。雰囲気を大事にするならこんなことはしない。・・・まあ口には出さないけど。


「でもそーくんなんてひょろちょろだから多分そんなこと言ってもなかなか難しいと思うから、今から私が言う通りにしてね?」


 ひょろちょろとか随分な言われようだな。


「まずこの電話が終わったらキッチンに向かって────」


「ちょっと待て、それはさっきも聞いたけど俺は包丁で人を刺すなんてできない」


「わかってるよ、だからキッチンから食料だけを持って自分の部屋にこもって?できれば1日だけでも」


 1日間家に篭るか・・・確かにそれならなんとかできそうだけど、あとの1日はどうするんだ?初音の話では家には2日分の食料があるらしいけど・・・


「もう1日は・・・」


「もう1日は・・・?」


 ここからが重要なところだ。あと1日をどう対策するか・・・


「断食して」


「はあ!?だだだ、断食!?俺は宗教とかに入ってるわけじゃないんだぞ!」


「でもその代わり、次の日には極上のお肉を食べても良いから、それを想像してなんとか持ち堪えて!」


「ご、極上の、肉・・・?」


 あんまり脂っこいものとかお肉とかは好きじゃないけど、極上のと言われるとなんだか喉を鳴らしてしまうな。


「うん・・・私のことを性的な意味で食べても────」


`ピッ`


「あっ」


 この先の展望が見えたから切ってしまった・・・でもまあ作戦も聞いたし、これからはなんとか1日間篭れるだけの食料をキッチンから調達しないとな。

 こうして俺は最後の言葉以外の初音からの伝言を賜った。

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