第342話あゆの罠

 と、とりあえず今あゆは不幸中の幸いか、俺の部屋にいる。つまり初音を俺の部屋と初音の部屋にさえ入らせなければ大丈夫なはずだ。

 俺の部屋に入らせてしまうとあゆがいることがバレるし、初音の部屋に入らせてしまうと監視カメラの映像を見られてしまうと終わりだからだ。


「と、とにかく一旦外で初音と話をして、その流れで買い物にでも行ってその間にあゆに脱出してもらおう」


 よし・・・!これならいけるはずだ・・・その前に、あゆの靴を隠さないとな。俺はあゆの靴を靴棚に隠した後、玄関のチェーンを外した瞬間にドアは勢いよく開いた。


「そーくん、どういうつもり?」


「ご、ごめん、ちょっとお腹下してて・・・」


「・・・そうなんだ、じゃあ部屋で安静にしてて」


 そう言って初音は靴を脱ごうとするが、俺はそれを止める。


「ちょっと待った、初音。ちょっ、ちょっと買い物に行かないか?」


「私今買い物しに出かけてたよね?」


 初音は自身が持っている荷物を揺らして強調して見せる。


「そ、そうなんだけど・・・お、俺1人じゃ買いに行けないから初音の助けが欲しいなぁって・・・」


「・・・なんか怪しいね、いつものそーくんならもっと私に頼ってくれてもいいのに全然頼ろうとしないのに、なんで今はこんなに私のことを頼ろうとしてくれてるの?」


 頼ろうとしてくれてるってなんか色々とおかしい気がするけどまあいいか。


「いや、その・・・は、初音ってやっぱり頼りになるなぁって・・・」


「・・・何隠してるの?」


 ドキッ・・・という効果音が出てもおかしくないぐらいの的確な質問だ。ここはうまく話題を逸らそう。


「今日天気いいな」


「今日曇りだけど」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 失敗した。全然話題の逸らしかたうまくないしなんなら墓穴を掘ってる。


「ねえ、本当に何隠してるの?今なら許してあげなくもないけど」


「・・・・・・」


 そうだ、俺は今までこの今なら許してあげる的な初音の言葉を信じずに誤魔化し続けて手痛いしっぺ返しを食らってるんだ。なら、たまには初音のことを信じてみよう。


「・・・わかった、実は────」


 俺はあゆが無理やり家に入ってきたこととあゆと少しの間雑談していたことを初音に話した。


「は、話したから許し───」


 初音はすぐに俺の部屋に向かって、そのドアを壊した。鍵が閉まっていると予見したからか、そんなこと関係無しなのかはわからない。


「きゃあっ❤︎」


 あゆの声か・・・?俺は初音を追いかけるようにして自分の部屋に向かった。


「・・・そーくん、聞いてた話とずいぶん違うみたいだけど?」


「な、なんだこれ・・・」


 俺の部屋は、ベッドの上の布団はベッドの端の方に追いやられ、ベッドのシーツは激しく乱れていて、ベッドの上と下に丸められたティッシュが何枚か落ちていて、さらにあゆはその端の方に追いやられている布団とホックの外れたブラジャーで自分の身を隠すように悪魔的な微笑を浮かべながら手で押さえていた。

 あゆが口パクで何かを言っている。読唇術なんて知らないけど、状況とその口の動きで言っていることがなんとなく理解できた。


『私の勝ちですね、先輩❤︎』


 や、やられたああああああああああああああああああ!!!!!!!

 この状況を客観的に見た場合、どう映るのかなんてもはや言うまでもない。

 俺があゆとここでそういうことをしていたと、そう見せるための罠。そのためにあゆは一足先に俺の部屋に入ってこの状況を作ったのか・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る