第340話初音との出会い

 いきなり白雪さんにこんな校舎裏に呼び出されるなんて・・・まさか虐められるんじゃ・・・女子はそういう裏の世界が怖いとかいうし・・・

 俺はあたりをきょろきょろと見渡してから忍足で校舎裏に向かった。


「・・・・・・」


 壁に肩を当ててステルスゲームのように校舎裏を覗き見てみると、そこには白雪さんが1人で立っていた。

 なんで俺・・・?白雪さんとは一緒のクラスってこと以外何もないし虐められるのって何かしら特徴がある人なんじゃ・・・


「や、やっぱり引き返そう・・・」


 なんかちょっとだけ白雪さんの顔が赤い・・・相当ストレスが溜まってるってことだ。そしてそのストレス発散を俺で───すぐに引き返そう。

 俺は引き返すことを決めて、ダッシュで校舎裏から出ようとした───が、その音に気づいたのか後ろから走る音が聞こえてきた。

 ちょっと距離が空いてたからそう簡単には追いつけないは───


「こはっ・・・!」


 い、いきなり首元が締まって・・・


「そ、総明くん・・・き、来てくれたんだ・・・///」


 来てくれたんだっていうか今完全に逃げようとしてたんだけど・・・それより制服の首元の部分を掴むのをやめてほしい。


「じゃあ、校舎裏、行こ?」


「え、ちょっ、ちょっと!?」


 そのまま白雪さんは俺のことを校舎裏まで連れて行くと、その手を離した。


「ごほっ!ごほっ・・・!い、いきなり何するんだ・・・ごほっ」


 あんなナチュラルに人の首を絞めるなんて・・・やっぱり俺はこれから虐められるのか・・・?


「えーっと、その・・・伝えたいことがあって・・・」


 え、俺まだ地面に膝ついてるんだけどその辺無視するのか?嘘だろ?ちょっとぐらい謝ってくれてもいいんじゃないか?


「・・・・・・」


 これからさらにひどい目に遭うなら同じことか・・・


「わ、私・・・総明くんのことが・・・す、好きなのっ!結婚して!」


「・・・はい?」


 聞き間違いかもしれない。・・・かも、じゃなくて聞き間違いだな。あの高嶺の花という言葉すら低く見える白雪さんが俺に告白なんてしてくるはずがない。


「あ、あの、も、もう一度お願い」


 俺は動揺しながらももう一度言うことを願い出た。


「結婚して!」


「・・・え?」


 け、結婚・・・?聞き間違いじゃなかったのか・・・?ていうか色々吹き飛びすぎじゃ・・・?交際から始まるんじゃ・・・?それより本当にあの白雪さんが俺に告白・・・?罰ゲーム的な・・・?普通好きな相手の首を絞めるか・・・?

 俺が疑問を脳内で再生していると、その脳内再生を吹き飛ばすようなものを白雪さんが取り出した。


「ほ、包丁!?」


 な、なんで学校にこんなもの持ってきてるんだ、銃刀法違反的なやつに引っかからないのか?


「な、なんでそんなもの持って───」


「結婚しよ?断ったら・・・わかるよね?」


 わからないわからない。え、その包丁が何か関係してる・・・?だめだ、目の前に包丁なんて突き出されたのが初めてで脳が処理に追いついてない。逆に包丁が突き出される日常なんてあるわけないけど・・・

 俺はずっと膝を地面に着けたままとうとう腰が抜けてしまい、それでもなんとか逃げようと両手を地面につけて後ろにゆっくりと退いていった。


「どうして逃げるの?」


「そ、その・・・その、ほ、包丁・・・お、置いて・・・」


 こ、怖すぎて声が震えてるのが自分でもわかるけどこんな建物の影になってる校舎裏で刃物なんて出されたら誰だってこうなってしまうはずだ。おまけに人もいない。まさに殺人をするならボーナスタイムとでも言えそうな環境だ。


「包丁?これ果物ナイフだよ?」


 いや、そういう問題じゃなくて。


「と、とにかくその刃物を一度どこかに置いて欲しい、です・・・」


 す、少しでも機嫌を損ねないようにしないと・・・


「何か勘違いしてるみたいだけど、別にこれで総明くんのこと刺そうとなんてしてないよ?」


「え、あ、そうなのか・・・?」


 それはよかった・・・まあ、普通そうか。人のことを刃物で刺すなんてそうそう簡単にできることじゃない。


「うん、でも、断ったら・・・ね?」


 その「ね?」の部分を文章にして事細かに説明してください。


「そ、そもそもなんで俺に告白なんてするんだ・・・?罰ゲーム的な何かじゃ────」


`チクッ`


「いたっ!」


 白雪さんがものすごいスピードで俺の頬に抜き身でコンパスの針を皮膚だけにあたるように軽く突き刺した。


「な、何するんだ!」


「人の愛情を踏み躙るような発言するからだよ」


「わ、わかった、罰ゲームじゃないのは分かったから・・・」


 う、嘘だろ・・・コ、コンパスを平然と人の顔に突き刺すなんて・・・


「そ、そろそろ、その・・・こ、答え・・・き、聞いてもいいかな・・・///」


 そんな照れながら言っても全く可愛くない。いや見た目は可愛いんだけど・・・そういう意味じゃなくて。じゃあ俺のことを待ってた時に顔が赤かったのは怒ってたんじゃなくて告白で照れてたのか・・・でもそれが本当なら好きな人にこんなことをするなんてどう考えてもおかしい。


「・・・・・・」


 白雪さんの運動神経がどのぐらいなのか、まだ入学したばっかでよくわかんないけど才色兼備って噂されてたし・・・俺は運動は得意じゃないけど相手が女子ならまだちょっとは張り合えるかもしれない。なら・・・


「こ、ことわる!」


 俺はそう言った瞬間になんとか気持ちで腰を立たせて、そのままダッシュで走った。さっきは捕まったけど、全速力で走れば───


`ドンッ`


「いたた───!?」


`ザクッ`


 俺はうつ伏せになって倒れた。おそらく白雪さんが俺の背中に乗っている・・・その証拠にさっき見た果物ナイフが俺の隣の砂を勢いよく突き刺した。


「私のことフるってこと?」


「ひっ・・・」


「・・・そう、フるなら無理矢理にでも頷かせるから」


「な、何をする気なんだ・・・」


「これから総明くんの左足首に右足首、次に左手首と右手首、最後に首を切るからその間でもし私の告白を受けたらやめてあげる」


 なんだその拷問の愛情バージョンみたいなやつは・・・でも実際に人の体を切断するなんてできるわけ────


「じゃあまず左足首からだねー」


 そう言って俺の全身を抑え、左足首の抵抗を手で止めて、解体師が動物を解体するときのような感じで俺の左足首にその果物ナイフを近づけていった。


「や、やめ・・・」


「やめて欲しいならどうしたらいいんだっけ?」


「・・・つ、付き合う、付き合うから・・・」


「・・・うんっ!ありがとっ!」


 そう言って本当に何事もなかったかのように白雪さんは頬を赤く染めて優しい笑顔で笑った。

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