第319話天銀の欲求

 林間学校地に着いた俺たちはまず宿泊地を見ることになった。

 どんなところで生活するのかわからないと不安が残るっていうのと荷物を置くためだ。

 林間学校なんて言うからどんな古風な木造の建物なのかと思ったけど、案外古風ではなく、加工されたん木材で、白と茶色の間のような感じの色合いをしていた。林間が公の宿泊地っていうよりは旅館に近いイメージだ。

 男女は階層が違うらしくて男子は2階、3階で女子が4階、5階らしい。

 そしてひとまず班ごとにそれぞれ割り当てられた部屋に行くことになった。


「ここが部屋ですか、和風ですね」


 俺たちの部屋は3階で、部屋の中は本当に旅館の一角を担っていてもおかしくないぐらい綺麗だった。


「俺寝る時ここー」


 1人の男子生徒がそう言う。同じ班になった人だ。

 正直に言うともう2ヶ月も同じ教室で一緒に授業を受けているのに顔と名前が一致していない人が多い。それほどに初音の管理が本当にやばい。

 そういえば・・・


「天銀はどこで寝るんだ?」


 ふと気になったことを口にした。


「僕は・・・最王子君の隣で寝ます」


「はあ!?なんでだ!?」


 俺がそう驚いた。実際なんで俺の隣なのか全くわからない。


「もし他の男子生徒が僕に寄って来たりしたら嫌なので・・・」


 ああ、俺が天銀のことを女子だと知ってるからそんな不用意には近づかないと見越してのことか。


「そういうことならわかった」


 俺は素直に快諾する。


「で、ですが、もし寄って来たくなったら・・・寄って来てもいいですよ?」


「え?いや、それだと俺が天銀の隣で寝る意味がなくなるだろ」


 変に寄って来られないために俺が隣で寝るのに俺が寄って来てもいいなら全く意味がない。


「そ、そうですね・・・忘れてください」


 天銀はそう言って部屋に荷物を置き、颯爽と部屋を後にした。


「なんだったんだ・・・?」


 結局天銀が言った言葉の意味がよくわからないまま、俺は荷物をおいて、指定されていた食堂に向かった。


「・・・・・・」


 実を言うと今ご飯なんて食べたくない。もちろんお腹は空いてるけど一応朝ごはんも初音が作ってくれて食べたし、何より乗り物酔いの後で吐き気がして気持ち悪い。


「・・・あっ」


 遠目に初音がいた。女子何人かと話している。おそらくこの広い食堂で人数も多いから初音も俺には気づけないだろうけど、初音の存在感がありすぎて俺はすぐに気づくことができた。


「・・・・・・」


`ギロッ`


「・・・え?」


 初音が俺のことをギロりと見た。ギロりと見たかと思えばすぐに俺の方まで駆け寄ってきた。


「そーくん!乗り物大丈夫だった!?」


「え、あ、まあ・・・うん」


「顔色悪いよ?大丈夫?酔い止めの薬渡したよね?飲まなかったの?」


「あ、いや、はい・・・」


 俺は昔から乗り物酔いが激しいけど酔い止め薬だけは基本的に飲まないようにしている。別に意地を張ってるとかじゃなくて若いうちから薬にはあまり頼りたくないという勝手な考え方だ。


「だめだよ、もう〜、でも昼食は男女自由だから一緒に食べられるね❤︎」


「あ、ああ・・・」


 俺と初音は周りからの注目を浴びながら栄養価満点のご飯を口にした。

 栄養に特化した副産物と言うか・・・初音の料理の方が美味しいな。

 

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