第299話初音は性行為がしたい

「そろそろ梅雨だね、そーくん」


「そうだな」


「梅雨になったら傘いっぱい折らないとね〜」


「なんでだよ!」


 そんなことしたらずぶ濡れになるだろう。いつにも増しておかしいのか?


「そーくんと相合傘するためだよー」


 そんなロマンチックのかけらもない相合傘はしたくない。なんでわざわざ傘を折るんだ。


「それはちょっと傘が勿体無いし・・・」


「は?そーくんとの相合傘と傘数本なんて比べる価値ないよね?それとも何?私との相合傘より傘の方が大事なの?」


 傘に嫉妬するのか・・・でも別にわざわざ折らなくても相合傘できるって言いたいんだけど、そんなことを言うと今度は傘を庇ってるとか言われるんだろうな。そろそろ俺も初音の心を完全に把握できてきてるんじゃないか?


「も、もちろんそんなことはない」


「なら決定♪早く雨いっぱい降らないかな〜」


 雨を焦がれる人なんてこの時代にいたのか・・・


「・・・ねえ、私たちって復縁してからそろそろ長いでしょ?」


 長いって・・・まだ1ヶ月半ぐらいしか経ってないんだけどな。まあでも体感的には半年はあったな。本当に濃すぎる1ヶ月半だった。


「だから、そろそろアレの時期だと思うの」


「・・・アレ?」


 復縁し始めてから1ヶ月半ですることってなんだ・・・?復縁記念とか言ってケーキ買って食べるとかそんな感じか。


「そのアレっていうのはなんだ?」


 俺は一度考えを纏るために近くにあったカップに入った紅茶を口に含んだ。


「性行為」


「ごほっ!ごほっ・・・!」


 俺は初音からいきなり放たれた言葉に驚きを隠せず、持っていたカップを手放してしまった。が、初音はそんなことに気も暮れず、真剣な表情で話を進める。


「だってもう1ヶ月半だよ?1ヶ月半もあって何も進展しないなんておかしくない?」


「1ヶ月半で何かがある方がおかしい・・・」


 確かに人によっては1ヶ月半でそういうことをする人たちもいるのかも知れないけど俺としてはそういうのは本当に最後の最後にしたいと思っている。少なくとも1ヶ月半でするようなことじゃない。


「でもさ〜、もう復縁する前も含めたらまだちょっと足りないけど約1年ぐらい経ってるんだよ?それなのに何も起きないなんて変じゃない?しかも私がこんなに来て来てオーラ出してるのに・・・もしかしてそれが嫌だった?嫌がってるのを無理やり、みたいな?そういうのが趣味なら私合わせるから言ってね!」


 初音は文字通り畳み掛けて言った。そ、そう言われてもな・・・俺にだってペースというものがある。


「それともそーくんには性欲がないの?」


 無いと言えば嘘になるけど、それは俺と初音の価値観の違いだ。俺はそういうことは本当に特定の一人としかしたくない。・・・っていうかこういうのは普通彼女の方がもっと慎重にしようとするはずなんだけど・・・


「まあ、あるにはあるけど・・・」


「ん〜、でもそういえばそーくんの部屋を監視しててもまだ一回もしてないもんね〜」


「何をだ?」


「自慰行為」


「は、はあ!?」


 またしてもそういう系のワードを放ってきた。どうしたんだ初音は、梅雨の気圧の変化にやられたのか?


「毎日する人はするって聞いたし・・・むしろ出すもの出さないと体に悪いらしいから出した方がいいよ?」


「余計なお世話だ!」


「あっ、もしかしてトイレでしてるのかな?」


「してない!」


 まさか初音がここまで詰め寄ってくるとは・・・今まではのらりくらりとなんとか躱してきたつもりだったけど、この初音の感じを見る限りそろそろ本当に貞操の危機を考えた方がいいかもな。

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