第298話プールの時間
とうとう懸念されていたプールの時間がやってきた。天銀はこの前の体育の時のように、なんとか端っこで俺に隠れながら着替えたため、特に何もトラブルなどはなかった。天銀のウェットスーツ効果も上々だ。よく見ると、胸部の端らへんに違和感がある気もするけど、それはあくまでもよく見たらで、しかも水の中だとそんなものはわからない。まさに完璧と言えるだろう。
プールは施設みたいな感じになっていて、屋根とかもしっかりとある。本当にプロの人とかが使っていてもおかしくないような設備だ。そのため、天銀がウェットスーツをする理由が他の人からしたらわからないだろうけど、別にそんなに気にしないと思う。先生とかには学校のプールの薬剤がどうのとかって説明すればいいし。
「男子が右サイド、女子が左サイドに別れてー」
先生が合図をかける。全く知らない先生だ。七海先生は数学担当なのでもちろん体育の授業は受け持っていない。
「男女で別れるんですね」
天銀が「なるほど」という感じで俺についてきている。俺はふと疑問に思ったことを口に出した。
「そういえば、天銀は運動神経はいいのか?」
これは重要な質問だ。俺の周りには運動神経が良すぎる人が多すぎるからな、これで天銀まで運動神経がよかったら俺は肩身が狭すぎる。前の体育の時はただちょっと走ったぐらいだったからよくわからなかった。
「いえ、全然良くないですよ」
「そ、そうか・・・」
少し安心てしまった。自分が情けない。
「ですが多少の武の心得はあるつもりです」
「ぶ、武の心得・・・?」
それじゃ結局初音とかと同類なのか・・・?いや、でも多少って言ってるし・・・天銀は基本的に頭とかも良さそうだし、初音とかよりは弱いのか?・・・わからない。
「そんなことより、指定の位置に着きましたよ」
そんなことを話していると、いつの間にか男子サイドの俺たちの場所についていた。女子も同様に女子サイドで待機している。
「じゃあ、ゆっくり体をプールに入れてください」
そう先生が言うと、生徒一同プールに体を沈めだした。もちろん俺も沈める。
「・・・冷たいな」
プールはやっぱり冷たかった。そしてそこでちょっとだけ体操的なやつをやらされると、プールの授業第一回目はとにかく泳げということでサイドにあがらされてから、側面ではなく縦面の方に並ばされ、いよいよ泳がされる。そして俺たちは今並んでいる。
「そーくん」
「ん?」
「約束、覚えてるよね?」
「も、もちろん、最低限見ないようにしてる」
「・・・そう」
そういうと、初音は俺の後ろに並んだ。因みに天銀は俺とは違う列でちょうど真横に並んでいる。そして、とうとう俺の出番が来てしまった。
「・・・・・・」
静かだ。水泳は好きじゃないけど水の中に入った時にいきなり静かになる感覚は好きだ。体を水の感覚に浸していると、そろそろ15M地点に到達した。15M地点に到達すると、後ろの人が泳いでくるという制度だ。安全と効率を求めた結果だな。
`ばしゃ!ばしゃ!`
「・・・ま、まさか」
俺が水泳で足を止めるのもどうかと思うけど、一度足を止めて振り返ると初音が爆速でこっちに向かってきていた。いや、もう追いつかれてしまった。
「は、早いな初音───」
俺が言葉を発しようとした瞬間に、初音は泳いだまま恵まれた動体視力と反射神経で俺のことを両手で抱くようにして、足だけで25M地点まで泳ぎ切ってしまった。俺のことをビート板代わり的な感じにしたみたいだ。・・・って!
「何するんだ!ごほっ・・・」
いきなりそんなことされたら蒸せるに決まっている。
「お仕置き」
「は、は・・・?」
「そーくんはさっき最低限見ないようにしたって言ってたけど、それでも2回ぐらいは見てたからそのお仕置き」
2回他の女子の水着姿を見てしまっただけで俺は水中で蒸せさせられるのか!?5回目ぐらいで死ぬだろ!
「はあ、はあ・・・」
天銀が25M地点に達したらしい。だいぶ時差があったけど、天銀が遅いわけじゃなくて初音が早すぎた。
「・・・・・・」
それにしても、天銀も特に何も問題がなさそうでよかった。結局今日は危惧していたような危ないこともなく、無事プール授業を終えた。
「そういえば日焼け止めとか意味なかったな・・・」
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