第279話霧響は初音より怖い

 そして俺はその後3時間、なんとか苦しいテラスの筋トレを終えた。


「・・・・・・」


 そんなわけがない!ラノベとかだとよくある主人公が1番苦労してそうなところを省略されるなんていう便利な機能は現実にはないんだ!今絶賛崖テラス筋トレ中だ。


「くっ・・・」


 無理だ、まだ3分しか立ってないのにこれをあと昼まで・・・つまり、今は9時だからあと3時間も続けないといけないなんて・・・


「霧響、これ冗談抜きできつい───」


「男の子なら泣き言なんて言わないでください!女の子にしちゃいますよ?」


 だからその初音もたまに言うブラックジョークやめろ。っていうかこれは男とか女とか絶対に関係ない。


「まあお兄様が女の子になっちゃったらお兄様の子供を産めなくなっちゃうのでそんなことしませんけど❤︎」


 さっきの初音と似たようなことを言うな!俺としてはこんな冗談に付き合ってる余裕はない。本当に腕が千切れるんじゃないかというぐらい痛い。


「霧響・・・あ、謝るから上げてくれ、これは本当に無理なやつだ」


「・・・謝る?何をですか?」


「・・・き、霧響を妹扱いしないっていう約束を破ったこと」


「・・・それではまだ50点です、もう一つありますよね?」


「・・・・・・」


 さすがに「霧響に逆らってしまってごめんなさい」なんて言えないし言いたくもない。かといって霧響が求めている答えは絶対にこれだという確信もある。どうしよう。


「わからない、なんのことだ?それより早く俺のことを上げてくれ・・・」


 ここはとぼけよう。


「あ、とぼけるんですね、まあいいですよ、そんなことをしても自分の首を絞めるだけですし」


「・・・・・・」


 いや、待て。口ではどんなひどいことを言っても実際に俺が死ぬってなったらやっぱり助けてくれるんじゃ───


「もし今口ではどんなひどいことを言っても実際に俺が死ぬってなったらやっぱり助けてくれる、とか思ってるなら私は助けません、というか、助ける意味もありません、なぜならお兄様が死んだのなら私も死に、また共に転生するだけですから」


 嘘だろ、そんなこと本気で言ってるのか。やばい、見誤ったかもしれない。もう俺の思考が完全に読まれていることなんてどうでもよくなるぐらいやばい。俺は久しぶりに霧響にあったあのゴールデンウィークの時、初音の方がやばいって認定したけど、もしかしたらもしかするかもしれない。


「・・・・・・」


「ああ、お兄様、美しいですよ、その苦しそうな顔や息遣いや血の流れなど・・・全て美しいです!」


 だめだ、これは初音より霧響の方がやばいっていう判定の方が正しいな。

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