第219話総明の車酔いと安心
「はい、着きましたよー」
運転手さんが軽い声で言う。どうやらもうマンションの前に着いたみたいだけど、こっちとしてはそんな軽いテンションじゃない、もう限界だ。早くこの地獄から俺を救ってくれ・・・
「・・・っ」
「ほら、そーくん」
初音が俺の背中をさすりながら手を貸してくれた。
「あ、ありがとう・・・」
俺は初音の手を取ってタクシーから出た。
「・・・あ、お金は──」
「もう払ったよ、そんなに周り見えないぐらい苦しかったの?」
「うっ・・・そ、そうなのか」
「はい、水」
「ありがとう・・・」
俺は久しぶりに初音が優しく見えてやっぱり優しい一面もあるんだなと改めて実感して安心する。・・・あ、そうだ。
「あの、タクシーの運転手さん、さっきなんか色々言ってましたけど全然気にしてませんから・・・」
「はいー、そうですかー」
「は、はい・・・」
なんかさっきから思ってたけどこの人リアクションが薄いな・・・まあ別にいいんだけど。
「せっかくそーくんがフォローしてあげたのに受け流すなんて何様のつもり!?」
「そうですよ!私ですらお兄様になかなかフォローなんてしてもらえたことないのにっ!」
また二人が運転手さんに対して怒った。
「き、気にしてないからやめてくれ・・・」
聞いた話によるとタクシーは常に監視カメラが作動していてタクシー会社にドライブレコーダーと一緒に監視されているらしい。
「これも見られてるのか・・・恥ずかしいな」
「ん?見られてるって何が?」
・・・!?まさか初音がセキュリティ面のことで俺よりも知らないことがあったとは思わなかったな。じゃあここはちょっとさっき情けない姿を見せたばっかだしかっこいいところも見せよう。
「タクシーには監視カメラが────」
「ああ、それなら入った時にエレクインバリッドっていう私の自作した電波妨害で監視カメラの映像飛んでないから大丈夫だよ」
「エレクイン・・・そ、そうなのか」
何を言ってるのかわからなかったけど、とりあえず大丈夫らしい。
「・・・・・・」
あれ、霧響がなんかぼーっとしてるな、どうしたんだ?
「霧響、どうかしたのか?」
「お兄様、もしかして・・・白雪さんと一緒のお家に住んでるんですか?」
「あれ、言ってなかったか?ああ、そうなんだ、最初は俺も拒否したんだけど成り行きで同棲することに───」
「言ってなかったかじゃないですよ!言ってなかったですよ!なんでそんな重要なことを先に言わないんですかっ!」
「え、あー、いや、はは・・・」
「はは・・・じゃないですよっ!」
その後も霧響はしばらくの間ごね続けた。霧響も中学生らしいところがあるんだなと思い安心する。
「霧響ちゃん、そろそろ行こ、ね?」
初音は若干口角を上げて言う。
「な、なんですかその顔・・・まさか、私のこの反応を見るためにわざと言ってなかったんですか!?」
「霧響ちゃんが言ってること全然わかんなーい」
「なっ・・・なんですかその言い方は!!」
そして今度は霧響が初音に対してごねだした。
「・・・今車酔いで疲れてるから先に帰っといてもいいか?」
「あー!もう!わかりましたよ!私も行きます!行けばいいんですよねっ!」
怒りながら霧響が俺たちの前を歩いて行った。
「可愛いね、霧響ちゃん」
「・・・・・・」
俺はそれには返答しなかった。理由は単純に車酔いのせいで気分が良くないと言うのともう一つはもし俺がここで「そうだな」とか言ってもし初音が「え、なんで私以外の女のこと可愛いって言ってるの?」とか言ってきそうだからだ。
「・・・・・・」
瞬時にここまで考えられるようになってしまっている俺ももしかしたらもうだいぶおかしいのかもしれない。初音と過ごしていたら本当に自分が常識からかけ離れていっているのではと不安で仕方ない。
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