第106話総明の迷い

「じゃあ、他には何もないみたいだし、大人しくこのままこの家に残ってくれるよね?っていうか、そーくんに選ぶ権利なんてないんだけど」




「・・・・・・」




 お、俺はどうしたいんだ?初音と恋人でいたいのか、それとも結愛の所に居たいのか。




「・・・?」




 結愛の所に居たいってなんだ?初音の場合は恋人っていう表現がしっくり来たけど結愛の場合は何か違う。ただただ近くに居たいっていうか、近くに居たら安心するっていうか・・・っ!


 これが依存なんじゃないのか?俺は初音に依存していたんじゃなくて結愛に依存しようとしているだけなのか?それともーー




‘ピンポン‘




「えっ・・・」




 家中にインターホンが鳴り響いた。このタイミングで来る人なんて一人しかーー




「何?」




 と、初音はインターホン越しに言った。この口ぶりからして相手はやはり結愛らしい。行く先は行ってないと思うんだけど、俺が行きそうな場所がここしか無かったからここに来たのか?




『何?じゃないよ、そーちゃんいるでしょ?返して』




『いないーー』




『嘘とかいいから、そーちゃんの耳の裏に発信機付けてるからわかってるんだよ』




「・・・ちっ、まあ当たり前か」




「・・・・・・」




 いや、当たり前じゃないだろ。なんか初音とか彩音とか結愛までもが発信機とか使ってるけどもしかしたら今時の女子高生はみんな発信機とかを常備してたりするのか?だとしたら物騒な世の中になったなどころの話じゃないぞ。




『そういうことだから、早く返してー』




「返して返しって・・・気に入らない、そーくんは私のなんだけど」




『はいはい、今はそーちゃんに集る虫と話してる暇はないから、早くそーちゃんを返して』




「それしか言えないの?」




『それぐらいしか用が無いんだから仕方ないでしょ?』




 お、おい、何してる俺、俺が一言言えばいいだけの話だろっ!「俺はやっぱり初音と恋人だ」って。それなのに、何で言わないんだ。もしかして、俺は本心ではもう結愛に依存してしまってるのか?ど、どうすればーー




『まあいいや、明日どうせ学校で会うことになるんだし、その時に‘返して‘もらえばいいだけだもんねー♪』




「そうだね、あと返して返してってしつこいよ?」




 初音がそう言うと、画面がフェードアウトしていった。




「なんてね♪明日そーくんと私は学校を‘休む‘んだから会うことになんてならないのにねー」




「・・・学校を、休む?」




「うんっ!こんな危険な状態のそーくんを学校になんて通わせられるわけないでしょ?ましてやあの女もいるのに・・・」




「そ、それは・・・」




 まずいな、まだ犯罪の域までは達してないけど、そのうち本当に何か犯してしまいそうだ。でも、だからって俺じゃ初音には‘勝てない‘し、このまま言う通りにするしか──勝てない?


 違う、そうじゃない。恋愛は勝ち負けじゃないんだ。初音とか結愛を見てると、どうしても勝ち負けのように感じてしまっていたけど・・・でも、勝ち負けじゃない。なら俺は──


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