第105話初音との遭遇
俺はまだポケットの中に前の家の鍵を持っていたのでその鍵で‘前の家‘の中に入った。まだ初音が帰って来ていないと信じて・・・
俺はそっと扉を開けた。が、特に何の物音もしない。おそらくまだ家に帰ってないんだと思う。
「よし、今の内に・・・」
俺は忍び足で自分の部屋だった場所の前まで行くと、これまたゆっくりと扉を開けた。ぱっと見誰もいない。俺は安心し、部屋の中に足を踏み入れた。が、そこでいきなり後ろから口元を押さえつけられる。
「んん!?」
「えっ、そーくん?」
と、後ろから‘初音‘の声が聞こえ、すぐに口元から手は離された。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
いや、そんなことより、気まずいな。・・・でもよくよく考えたら初音は俺たちのやりとりを知らない。ならーー
「た、ただいまー、お、遅くなってごめーー」
「監視カメラで全部見たんだけど、騙しとおせると思ってるの?」
「うっ・・・」
そ、それは見てるよなあ・・・はは。でも、見てたなら見てたで都合が良いな。
「ならわかるだろ、俺はお前に恋心を抱いてたんじゃなくて、単に依存してただけの最低なやつだったんだよ・・・」
と、俺が情けなく言うと、初音は何か言うでもなくーー
‘パチン‘
と、俺の左頬を右手で引っ張たいてきた。
「いっーーいきなり何をーー」
‘パチン‘
と、今度は俺の右頬を左手で引っ張たいてきた。
「って!だから痛いって!なんでいきなりーー」
「だって浮気したんでしょ?いや、浮気なんて甘いもんじゃないよね、だって私たちの恋を根本から否定したうえであの女について行ったんだもんね?」
「・・・・・・」
何とも言えないけど、それも仕方のないことだ。恋で前に進めることはあったとしても依存では前に進めない。変化がないことなんてそんなものは恋愛と言えるのか?
・・・言えるわけがない。もう既に夫婦ならともかく付き合っている段階から依存状態なんじゃそんな恋愛に未来は無い。
「・・・なんで黙ってんの?」
「いや、その・・・だからさっきも言ったけどーー」
「依存じゃないってば!何あの女の良いように騙されてるの?」
「だ、だけどーー」
「あーもううるさいうるさい!とにかくそーくんは私のことが好きなの!」
「でも、家事とかも全部やらせてるしーー」
「やらせてるんじゃなくて、私がやりたくてやってるだけ」
「じゃあ恋愛ごとでいっつも初音にだけエスコートさせてーー」
「それも私がしたくてやってるだけ」
「ほ、他には・・・」
な、無い。俺はそこで約10分間ほど黙り込んでしまった。
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