第54話非日常の中での安息の狭間

「あの、俺何かした?」




 地下室に連れてこられた俺はまず初めに初音にそう聞いた。っていうかできるだけ紺の地下室に吐きたくなかったんだけど・・・あの恐怖が・・・




「何かしたかどうかで言うとしてるけど、今回はそうじゃなくて、地下なら電波は飛ばないから発信機だって意味をなさないでしょ?」




「まあ、そうだけど・・・ちなみにどれぐらいの時間ここにいるつもりなんだ?」




「んー・・・まあ、一週間ぐらいかな?」




「一週間!?」




「何驚いてるの?冗談だよ?」




 本当に心臓に悪い冗談を毎度毎度・・・遊ばれてるのか?




「あっ!それともこの地下に二人きりで私と一週間居たいとか?」




「居たくない!」




 と、俺が地下室に響くぐらいの清涼で言うと・・・




「え、何私と二人きりなのが嫌なの?今日は何もするつもりはなかったけどもしかしたら何かしないといけなくなるかもしれないよ?そういえば前に私拷問器具購入したって話したよね?だからあれをーーーー」




「いやいや!は、初音と二人きりが嫌なんじゃなくて地下が嫌なんだって!それに、ここはセキュリティー完備のタワーマンションなんだろ?だったらあの女の子が何かできるとも思えない」




 そうだ、ここはタワーマンションなんだ。仮に本当にあの女の子が発信機で俺の家を特定できていたとしてもそもそも中に入る手段がないはずだ。




「そーくん、あいつに手とか触られたりした?」




「手?いや、特にはーー」




 いや、体を支えられたときにもしかしたら当たっていたかもしれない。




「もしかしたらちょっとだけ当たったかもだけど、それがどうかした?」




「どうかしたもないよ、私以外の女に触れてる時点でアウトだからね?」




「・・・すいません」




「でも今はそのことじゃなくてその手で触れられたっていうのだけど、もしかしたら指紋をかなり細かく付けられる布で触れられてるかもしれない」




 し、指紋をかなり細かく付けられる・・・布?スマホの液晶に指紋を押し当てるときにできる指紋の跡がくっきり残る布ってことか?




「それが・・・?」




「もしそれが本当なら指紋認証で入れるこのマンションのエントランスには少なくとも侵入できるはず」




「なるほど・・・」




 いや、でもさすがにそこまではしないだろう・・・そういうの海外のアメコミヒーローとかで見たことあるけど現実でそんなことはないと思いたい。まあ、最近は日常が非日常になってしまってるし・・・


 っていうかさっきからセキュリティーについてしか話してなかったけどそれよりも大事なあの女の子の動機は何なんだ?なんでそこまでして俺を・・・?




「んー・・・」




 思い出そうとしてみるもぼんやりとしか思い出せない。確かにあんな感じの声の友達が俺には居た・・・気がする。女の子は声変わりしても特段声が変わるわけではないからなんとなく面影を感じた気がする。




「そーくん、ちょっとの間ここで待ってて?」




「え、どこにーー」




「動かないでね?」




「・・・ああ」




 そして、初音はそっと扉を閉め、外に出かけてしまった。・・・この地下室で一人になると色々とこみあげてくるものがあるというか・・・思い出すものがあるからできればやめてほしい。


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