第10話初音との朝

俺は目を覚ます。可愛い‘普通‘の女の子と普通に恋愛をする夢を見ていたのをぼんやりと覚えている。俺は夢と現実を入れ替える方法というのを頭の中で検索する。




『何を言っているのかわかりません、バカですか?』




 脳内検索は見事失敗に終わった。はあ、見慣れない天井、いつもと角度が違う日差しの差し方。


 ・・・どうやら昨日の初音との再会は夢落ちではなかったらしい。ラノベとか漫画では夢落ちは批判対象だけど今だけは夢落ちであってほしかった。




「・・・は?」




 俺は反射的に上体を起こし、右隣を見ると思いっきり初音が目を開けながらこっちを見ていた。




「おはよ、そーくん♥」




「・・・いや、は?」




 状況が呑み込めない。昨日そこまではしてないはずだ。




「なんで俺のベッドにいるんだ?」




「一緒に寝たかったから♥」




「・・・部屋の鍵はどうしたんだ?」




「ピッキングしたよ」




 ・・・いや、こんな高そうなマンションなのにピッキング防止加工無いの!?いや、初音が改造したのかもしれない。はあ、冗談だろ・・・




「もしかして、嫌だった?」




 それ俺に選択肢無い質問じゃない?これで素直に「うん、嫌だった!」なんて言った日には俺は肉団子だろう。だから俺は嘘でもあわせなくてはいけない。




「う、嬉しいに決まってる」




「その割には冷や汗出てない?」




「嬉し汗だよ」




「何それ・・・」




 割と冷たい目で見られている。まあ、嬉し汗はないか。




「まあ、とにかくご飯を食べよう」




「うん!そうだね!朝もうできてるよ!!」




「え、もうできてるの!?」




「うん!さっきここに入って来たから」




 ええ、そうだったんだ。なんか一晩中一緒に寝てたとか想像してた俺がバカみたいだ。




「あ、ありがとう」




「ううん、私がやりたくてやってるだけだから♪」




 ・・・神様、お願いです。人の感情の一つを消す魔法を僕にください。‘嫉妬‘という感情を消す魔法をください。それさへあれば俺は目の前にある幸せを素直に掴むことができるんです。


 障害があれば燃えるという人もいるけどこれはそんなレベルではなく死活問題だ。




 そして俺たちは昨日の夜のように俺の部屋でご飯を食べようとする。今日はシュガートーストとドレッシングサラダらしい。相変わらず美味しそうだけど・・・




「は、初音?今日は‘隠し味‘入ってないよね?」




「うん、昨日そーくんが心配してくれてたし・・・あ!でもほしくなったらいつでも入れるから!」




 いや、余計なお世話ーーじゃなくて




「いや、ううん、そのまま自分の体を労って」




「うん///」




 ちょっと罪悪感があるけど、妙な隠し味を食べさせられるよりかは全然いいはずだ。




「「いただきます」」




 ふむふむ、やっぱい美味しいな。ほっぺたが落ちるとはこのことを言うんだと思う。




「おいしい?」




「うん!おいしい!!」




「よかったあ」




「初音は料理うまいんだからそんな心配する必要ないと思うよ?」




「そ、そうかな///ありがと」




 ・・・しまった、つい本音を垂れ流してしまった。だめだ、忘れてはならない。この可愛い笑顔の初音は昨日この顔を真顔にしながら俺のラノベたちを捨てていったんだぞ!!


 今日の朝ごはんを食べ終わった俺たちは高校に登校することにした。




「行ってきます」




「行ってらっしゃい」




「って、一緒に行くのにこのやりとりいる?」




「うん、いるよ!こういうのやりたかったからね♪」




「そ、そう?」




 女の子の小さい夢、なのかな。そして俺たちはエレベーターに乗り、1Fまで降り、学校へと向かった。




「そーくんとこうして学校に登校できるなんて夢みたい♥」




「そうだね」




 本当に夢ならよかったと思う。・・・はあ、俺の・・・いや、忘れよう。




「ねえ、そーくんは昨日転校してきたばっかりで知らないと思うけどこの学校ってかなり美人の人多いんだってー」




「へ、へえー・・・」




「その中には贅肉・・・胸が大きい女もいるんだって」




「そ、それがどうかしたの・・・?」




「いや?べつにー?」




「・・・・・・」




 何とかしのげたな。多分これは誘導尋問だろう。でもこんな見え見えの誘導尋問には引っかからない。




「胸が小さくて可愛い女もいるんだって」




「へ、へえー・・・」




 よし、これならずっと今日見ないふりをしていればーーーー




「何?胸の小さい女の子には興味ないの?」




「え?い、いやいやいや、胸が大きいって言われたときも同じ反応したけど!?」




「でもどっちにしろ胸の小さい人には興味ないの?」




 ま、まずい、これはあるって言わないと!!




「あ、あるある!」




「あるの?」




「う、うん」




「へえ、胸が小さいなら誰でもいいんだ・・・・」




「えっ・・・」




 いや、本当になんて言えば正解だったの?これは俺が女心を理解できていないのか初音がおかしいのかどっちなんだろう。




「ご、ごめん」




「冗談だって!ごめん、ちょっとからかいすぎちゃった♪今のは意地悪だね!久しぶりに一緒の登校だからちょっと舞い上がっちゃって♪」




 し、心臓に悪いご冗談を!!!!!!!!!




「あ、ああ、い、いいよ、全然」




 そして俺たちは学校に登校した。

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