第2話別れたことを認めない元カノ

 そう、高校一年生のとある冬の日、俺は確かに初音をフった・・・つもりなんだけど。


ー1年前の冬ー


「初音、俺たち、別れよ」


「え、なんで?」


 なんでって、いや!今日こそちゃんと言わないと!!


「い、いや、だって、その、ちょっと束縛がきついというか・・・」


「そう?全然そんなことないと思うけど?」


 いや、あれでそんなことないなら初音の‘そんなことある‘だと、俺は間違いなく死んでいるだろう。


「いや、でも、別れよう」


「え?嫌だよ?」


「いや、でもこれ以上は難しいと思うんだ・・・」


「え?無理だよ?」


「いや、でも俺たちは馬が合わなかったってだけで────」」


「いや、無理だよ?」


 ・・・このままループしてしまいそうだ。どうしよう・・・


「と、とりあえず!俺と別れよう!!一旦!!」


「一旦?」


「うん!一旦!!」


「…不満だけど、まあそういう時あるよね・・・わかったじゃあ‘一旦‘ね?」


「うん!!」


 そしてその出来事の数日後初音は転校していった。


ー現在ー


 ・・・全然ちゃんとは別れられてない。あの後すぐに初音が転校していったからすっかり忘れてた。でも、どちみちあんなのは別れたのと同じだ。一旦別れると言って、そのあとでもう3ヶ月も初音とは会っていなかった。それはつまり、もう‘別れた‘ということだ。普通3ヶ月も会っていない恋人なんてあり得ない。だから、ちゃんと別れられたはずだ!なのに・・・


「ねえ、そーくん、なんでなの?ねえなんで?」


「・・・・・・」


 なんでこんなに初音は話しかけてくるんだ、それも黒曜石みたいな目をしながら、ものすごく早口で・・・


「ねえ、そーくん?あれ?聞こえてるー?そーくん?」


「・・・・・・」


 ちょっと可哀想かもしれないけど、初音のことを無視しよう。そうすれば───


「最王子君が私のこと無視すーーーー」


「初音?話そう」


 初音・・・俺が極力転校生だから最初の印象を大事にしようとしているのをわかっていて、わざとあんなことを言おうとしたんだろう。


 そう、初音の厄介なところは妙に頭が切れるところとか、あとは鋭いところとかがある。


「あっ、やっと聞いてくれる?もう、人の話は聞かないとだめだよ?」


「あー、そうだな、ごめん」


 俺はかなりの棒読みで謝る。


「で?なんで私のこと無視してたの?」


「いや、それは、もう別れたから・・・」


「え、別れてないよ?」


「え?」


 これは・・・もっとも危惧していた状況になっているのかもしれない。


「まさか、あれで別れたつもりだったの?私別れるなんて一言も言ってないよー?」


「いや、そうだけど、でも転校したとはいえ3ヶ月も会ってなかったらそれはもう別れたって言うんじゃないか?」


「だから私は会うためにピンポンに行ったり手紙を送ったりしてたんだけど、それを無視してたのはどこのそーくんかな?」


「うっ・・・」


 それもう答え言ってない?


「と、とにかく、今も俺の気持ちは変わらない!俺はもう初音とは別れたつもりなんだ!!」


「・・・もしかして、女作ったの?」


「いや、そんなことしてないけど・・・」


「あっ!そっかー、よかった、まだそーくんの貞操は守られてるんだね♪」


「・・・・・・」


 そういうことはあまりこういうところでは言わないでほしい。


「そういうことだから、改めて俺とは恋人じゃなくて普通に接してーー」


「いや、無理」


「いや、そこをなんとか!」


 俺は頭を下げて頼む、そうでもしないと承諾してくれないと思ったからだ。でも、俺はどうやら読み違いをしていたらしい。頭を下げた程度では全然お願いを聞いてくれないらしい。


 こうなったら、無視するしか・・・いや、無視しても問題を先延ばしにしているだけだ。それじゃあ、意味がない。


「なあ、初音、なんでそんなに────」


`キーンコーンカーンコーン`


 一限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。・・・いや、タイミング!

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