第6話:噓八百・愛子視点
いきなり訳が分からないうちに神の世界に召喚されていました。
生れてからずっと病院の中で育ちました。
先天的に身体が弱く、ほとんど病院のベットで過ごす一生でした。
たまに身体の調子がいい時に窓の外から見る景色はとても美しかった。
無菌室の窓越しに見るテレビの風景映像に魅せられました。
力一杯運動できる身体に激烈な嫉妬を覚えていました。
結局一度も無菌室から出ることができない一生でした。
「おら、おら、おら、悪人は黙って死にな」
これがその反動なのは自分でもよくわかっています。
叩きのめさなくても魅了するだけで味方にできるのに、一度は戦ってしまいます。
乱暴な言葉遣いも憧れていたテレビの主人公のマネです。
復讐の女神に迎えられ、哀しい想いをしている人を助ける役目をもらいました。
借り物の身体でしかありませんが、召喚された時には思いっきり動けます。
そう教わりましたが、なかなかその機会が訪れませんでした。
「女子供に手出しするような奴に容赦はいらねぇ、ぶち殺してやるよ」
眷属神と名乗るべきなのか、神使と名乗るべきなのか、そんな事も教えてもらえず、ただ復讐の女神の周りを漂いながら召喚される機会を待ち続けるだけでした。
こんな事ならどのような厳しい境遇でも人に生まれ変わりたかった。
何もできずに他人がする事を指をくわえて見ているだけなんて、無菌室のベットの上で寝ているだけだった前世と同じです。
復讐の女神に文句を言って滅せられてもいい。
そう覚悟を決めて悪態をついてやろうとした時にローズマリーに召喚されました。
その瞬間に初めて自分に与えられる力を知ることができました。
復讐の女神は本当に身勝手な奴です。
でも、この貴重な機会を逃せるほど私は無欲ではありません。
いえ、むしろどうしようもないくらい欲望に満ちた存在です。
(愛子、どうして直ぐにタイラー侯爵を殺してしまわないの。
愛子の力なら今直ぐにでもタイラー侯爵を殺してしまえるでしょ。
愛子が直接殺さなくても、魅了でもっと悪人を集めれば簡単に攻め殺せるでしょ。
タイラー侯爵がこちらよりも多くの兵力を集めても、その兵力を魅了の力で味方につけることができるでしょ。
何故こんなに時間をかけるの、愛子)
ローズマリーの言う通りです。
私の全力を使えば、召喚されたその日に復讐をすることができました。
この国から腐れ外道を一掃して、誇り高い人間か善良な人間だけを残す事も簡単にできました。
でもそんな事をしてしまったら、私は復讐の女神の所に戻されてしまいます。
もうあそこに戻って漂うだけの存在に戻るのは絶対に嫌です。
どのような悪辣な手段を使ってでもこの世界に残り続けてやります。
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