第5話:魅了

(何をされているのですか、愛子様)


「ああ? ああ、治癒だよ、治癒の力でぶち壊した身体を治しているのさ」


(こんな下種な者共を治してどうするのですか)


「手先に使うのさ。

 腐れ外道の下種だからこそ、互いに殺し合いをさせるのさ。

 下種を殺すために善良な人が犠牲になってはいけないからな」


(そんな事が可能なのですか。

 何か利益を与えて働かせるのですか)


「そんな面倒な事はしないよ、私の魅了の力を使って操るだけさ」


(愛子様にはそんな力まであるのですか)


 心から驚いてしまいいました。

 愛子様は天下無双の戦闘力だけでなく、人間を自由に操れるのですね。

 二百以上の騎士と従騎士を半殺しにした後で治療する力まであるのですね。

 アーロン国王陛下が私のために護衛に付けてくれた近衛騎士は、騎士隊長一騎、騎士長十騎、騎士百騎、従騎士百二十四騎もの大部隊だったのです。


「ああ? ああ、そうだな、復讐の女神に抱えられえてるの者は全員一騎当千だ。

 復讐の女神に願い事をする奴は大抵追い込まれているからな。

 だが、まあ、今回は特別敵の数が多そうだからな。

 魅了の力を持つ私が選ばれたんだろうな。

 それじゃあ、とっとと王都の戻って願いをかなえてやるぞ」


(はい、ありがとうございます)


「それと私の事は愛子様じゃなくて愛子と呼びな。

 様付けなんかされるとジンマシンが出ちまうよ」


(はい、ありがとうございます愛子様、いえ、愛子)


 あれよあれよという間に王都に戻ることになりました。

 あれほど卑しく醜かった近衛騎士団の連中が、清廉潔白な誇り高い騎士のように振舞いますから、内心で笑ってしまいました。

 もっとも、今の私には身体を自由に動かすことができませんから、言葉を発する事などできません。


「おい、お前らの同類を集めてこい。

 品性下劣な陰で悪事を働いている、死んで当然の連中を集めてくるんだ」


「「「「「はい」」」」」


(何をする心算なの愛子)


「ああ? ああ、前にも言ったろ。

 殺し合いは性根の腐った悪人同士にさせると。

 誇り高い心の奇麗な人間を無駄死にさせるわけにはいかないからね。

 有難いことに、性根が腐っていると分かっている連中が二百人以上いるんだ。

 陰でこいつらとつるんで悪事を働いていた連中を集めて魅了するのさ。

 そうすれば悪人ばかりで軍隊を設立することができるからね」


 確かに悪人ばかりで軍隊を編成できればいいですね。

 問題はそれだけの悪人はいるかどうかですが、いるでしょうね。

 貴族院での裁判を振り返れば、大半の貴族は悪人ですものね。

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