第7話:裏切り・愛子視点

「愛子様、この復讐が成し遂げられたら、ローズマリーの魂がこの世界から消滅しまうと言うのは本当ですか」


 こいつは、ローズマリーが恋しているというバイロン王太子だな。


「さあな、ローズマリーが読んだという魔導書にはそう書いてあったそうだ。

 それに復讐の女神にもその条件で力を貸してもらったそうだ。

 だが実際にどうなるかは私には分からない。

 全ては神のみぞ知る、復讐の女神しだいだろうな」


「今のお話ぶりだと、愛子様は復讐の女神の事を好きではないように聞こえますが」


「ああ、好きじゃないな。

 私も好き好んで復讐の女神の手先になったわけじゃない。

 死んで気がついたら復讐の女神の手先にされていただけだ。

 案外ローズマリーも同じように手先にされるかもしれないな。

 それとも復讐の女神の力を保つために喰われちまうか……」


「もし愛子様が復讐の女神に忠誠を誓っていないのなら、助けていただけませんか」


「だから時間稼ぎをしてやっているじゃないか。

 その日のうちに殺せるタイラー侯爵を見逃して、チンタラ戦いを引き延ばしているじゃないか、これ以上私にどうしろというのだ」


「……思い切って言わせていただきます。

 腹が立つのなら私を殺してくださって結構です。

 愛子様がタイラー侯爵達を滅ぼしてくださって、ローズマリーがこの世界から消滅するのなら、生き続けなければいけない理由も、生き続ける意味もありません。

 だから思い切って本心を言わせていただきます。

 ローズマリーにその身体を返してやってください。

 愛子様は他の身体に憑依してください。

 この通り、お願いします」


 土下座されても困る。

 この世界に土下座があるのにも驚いたが、こいつの言う事にはもっと驚いた。

 私に他の身体に憑依しろというのは、あまりにも身勝手な考えだな。

 憑依する相手を変えたら、私の力が失われてしまうかもしれないのだぞ。

 国の事よりもローズマリーの事しか考えていないと糾弾されても仕方がないぞ。

 そもそも他の身体に憑依できるかどうかも分からないのだぞ。


 だがバイロン王太子の言う事は大いに面白い。

 もし実現できるのなら、私にとってもローズマリーにとっても、これ以上の事はないと断言することができる。

 復讐の女神が見逃してくれるとは思えないが、わずかな時間でも本当の自由を手に入れることができるのなら、滅されても本望だ。


 だがやるのなら確実な方法を取りたい。

 他人に憑依し直すよりは、魂のないクローンを創った方が憑依しやすいだろう。

 それにローズマリーの願いをかなえておかないと、身体を取り戻しても恨まれる。

 タイラー侯爵達を滅ぼすタイミングと、クローン体に憑依するタイミングを計らないと、全く意味のないことどころか、全てを台無しにしてしまう。

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