第52話「免許も良いかも」

 大学に入学をしてからあっという間に季節が駆け巡り、いつの間にか夏真っ盛りになっていた。夢や希望なんかを抱えて入学をしたものの、気が付けば何も手にしないまま学期がひとつ終わってしまい、夏休みと言う名の長いようで短い、束の間の長期休暇へと突入した。


 サークルには一応入っているものの、活動自体がかなりゆったりした状態になっているということもあって世にいうキャンパスライフというものを謳歌できていない。授業には出席している。語学の授業を通じて友達もできた。サークルだって活動こそないものの個々には集まっていて適度に遊びに出掛けている。大学生的な遊びに不慣れな私たちは結局町ブラとカフェ巡りでお茶を濁しながら日々を過ごしている。


 女子的ではある。そして振り返ればこれが青春だったと思うのだろう。しかし私の望む破天荒なイベントには未だ巡り会えていない。リュックひとつで人類未踏の地に行ってみたり、大人数で離島に行ったり、でっかいキャンプファイヤーを囲ってみたり、そういうのがない。


 「海賊王にでもなる気か」鈴木赤が言う。彼女は劇団をプロデュースし、身ひとつで世間を渡り歩こうとしている。結局、親の進めで大学には進学したので身分的には大学生ではあるものの、大学には殆ど行かず、創作活動に専念しているようである。


 「だってさ、青春っていうのは命がけでやるものなんじゃないの」

 「大学に入ってからだいぶ血迷ってないかい。高校の頃の私が言いそうなことじゃん」鈴木赤は平然とした顔で言う。

 「赤ちゃんに感化されたのかもね」同様に何気なく返す。

 「感化されてるならとっくのとうに世界に出掛けてるよ」鈴木赤は核心を突くことを言う。

 「私は私のやり方でラフテルを目指すよ」

 「良いじゃん、その意気だよ。人の夢は終わらねぇってやつだね」鈴木赤はにやりとして言う。

 「返し、テキトーすぎない。ところで最近はどうなの。公演は打てそうなの」

 「演劇にしてもお笑いにしても、サークル界隈のやつらはまだ自分たちのところでも公演を打ってないからって全然相手にしてくれない。所詮その程度のやつらしか集まってないんだよ。良い子ちゃんぶってるやつらばっか」鈴木赤は不満そうに口にする。

 「人が集まらないってことだね」

 「そうだね。ゼロからやってみるって言うのは中々難しいね。キャストからスタッフから全部知らない人たちかつ未経験者から募るっていうのがそもそも難しかったのかもしれない」鈴木赤が珍しく弱音を吐いている。

 「でも今くらいしか完全な未経験者っていないわけでしょ。ご時世柄、公演の母数が減ってるからまだ引っかけやすいだろうけど」

 「風呂敷を広げ過ぎると現実からどんどん遠ざかっていくね」

 「今のところは口だけの私より十分立派だと思うよ」本心から言う。

 「あゆも青春のアルバムを絶対作ってね。私も世間に名を轟かせる作品をゼロから世に出してやるからさ」


 そんなこんなで私たちは途方もない青春なり夢なりを模索しつつ、この春から夏にかけてをあくせくと過ごすのであった。そうだ、免許くらいは取っておこうかな。

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