第51話「再結成」

 「あっけましておっめでとう!」画面の中にいる鈴木赤が相変わらず元気に言う。思わずスピーカーのボリュームを二段階下げてしまう。

 「もう年が明けて4日も経つけどね」

 「細かいことは気にしなーい。地域によっては一月いっぱいその挨拶で通用するところもあるんだから」

 「地域によるって便利な言葉だよね」冷静にツッコんでみる。

 「でも年末以来だから数日しか開けてないのに久しぶりな感じがするね。私が暇してたってのもあるんだけど」

 「田舎に帰ってたんじゃないの?」鈴木赤は田舎に帰っていたはずだ。私のように引き籠っていない分、暇をしているはずがない。

 「田舎に帰るつっても外は雪だらけだしさ、意外にも雪なんてすぐに飽きちゃうんだよね。まともに外にも行けないしさ」

 「田舎特有の大きいスーパーとか行かなかったの?この辺じゃ見かけないから、私はああいうの好きだけどな」

 「必要最低限しか連れて行ってくれないんだよ、それが。私にとっては特別なものかもしれないけど、地元の人からしたら当たり前のものだし、そもそも私たちが来る前に最低限の買い物なんかは済ませてくれてたわけだしね」

 「只の二度手間になっちゃうってわけね。じゃあ田舎までは新幹線?」

 「夏だって新幹線を使っちゃうよ。慣れない道だし、うちみたいな素人ドライバーが集まるしで、特に高速は地獄だね。ましてやこんな雪の中じゃ走る気にもなれないみたい」

 「でもご両親のどっちかは雪国の出なんだよね?」

 「それでも久しぶりだと怖いみたいよ。昔は一人で乗り回してたらしいけど、今は家族での移動となるからね。人数が変わるだけで走り方も変わるんだってさ。重たくなって思うように走れないって」

 「運転する人にしかわからない感覚だろうね。ともかくもうこっちには帰って来てるんでしょ?」

 「今日帰って来たばかりだよ。明日から仕事だって言うのにギリギリまでのんびりしちゃってさ」

  「いつか大人になったらのんびりしたくなる気持ちもわかるんだろうけどね」

 「そんなこんなでこれからはまたこうして話せるけど、こっちも雪が溶けない以上は中々会いにくいよね」鈴木赤は何でもない様子で話す。

 「雪なんて積もってたっけ?」

 「え、そっちは積もってない?」鈴木赤は驚いた様子で聞き返す。

 「雪どころか雨すら降ってないよ」

 「雪国ほどは積もってないけど、足元を掬われるくらいには積もってるよ。明日からそこらかしこで雪かきが行われて、しばらくはびちゃびちゃつるつるなんだろうなって感じだね」

 「もしかして引っ越した?」唐突に質問をしてみる。

 「いや、私はずっと同じ所に住んでるけど。ちょっと待ってて」そう言って画面から消えた鈴木赤は1分くらいするとそそくさと寒そうな素振りで戻って来て、両手に載せた雪の塊を見せてくれた。

 「この歳になったけど一回くらいは雪合戦をしてみたいなって思うよね」鈴木赤が何食わぬ顔で言う。

 「なんでそんなん持ってんのさ。もしかして雪国から雪ごと持ってきちゃったんじゃない?」

 「そんなことないよ。毎日ネットに小話を書いていた人がその投稿を月イチくらいの頻度に落とした途端、“”それまで読んでいた小説に引っ張られて“”真剣な話しか書けなくなって、果てはタイトルさえ書き忘れたままネットに載せちゃったり、登場人物のキャラ設定を忘れちゃって自信を持って書けなくなっちゃったりとかはあるけど、まさか一個人が雪の環境を持ち込むなんてことはないよね」

 「というかそれは“”読んでいた小説に引っ張られた“”わけじゃなくって、その人の創作意欲が落ちたってだけじゃないのかな」

 「そうとも言う」鈴木赤は無の表情で言う。

 「そしてそんなネタを登場人物の口を通して言わせたりしガチだよね」追い打ちをかけるようにツッコんでみる。

 「開き直りも中途半端な居直りになっちゃうと“”手を伸ばして当たったものを取って出ししてる感“”が出ちゃうよね。私も気を付けなくちゃ」鈴木赤はなぜだか反省した素振りになる。

 「ネタが尽きると思い付いたものをそのまんまの形で出しガチになるんだね」

 「勢いがある内は良いんだけど、勢いがなくなって動きだけになった瞬間、どっか冷めちゃうんだよね」

 「だからこそ間を空けずに続けることは大事だったりするんだよね。ちなみにその冷めちゃうって言うのは誰目線の話なの?」

 「作者と読者、両方かな」鈴木赤は少し考えた様子で話す。

 「私たちもさ、夏に大会に出てみたものの、あれからすっかりご無沙汰になっちゃってるじゃん。赤ちゃんはネタ作りに励んでいるみたいだけどさ、実際のところどうなの。人が演じている様子を見ながら作る脚本と、いつか演じさせるっていう予定で作る台本はクオリティが変わったりするものなの?」

 「全然違うね。ネタ合わせしながら作るやつはどうにかしなきゃっていう気持ちが強くなるから最速で完成形を目指すけど、しばらく間が開いちゃいそうなやつはそこまで真剣にはなれないから、役者が決まってから微調整しようって気になっちゃって蔑ろになる部分はたくさんあるよ」鈴木赤は自省を込めて言う。

 「いっそのこと、また私たちを舞台に上げてみない?」

 「でも大会なんてもうないよ」

 「私たち向けの大会がなくってもさ、今はネットでいくらでも配信できるじゃん」

 「私はそういう道に進むつもりだから良いけど、映像ともなると一生ものの傷みたいに残っちゃうかもしれないよ」

 「残してやろうじゃん。誰だって下積み時代はあるわけだし、何もそれが恥さらしになると限ったわけではないんだしさ」

 「将来的にそのネタが何かの差別に引っかかってオリンピックみたいな大舞台のチャンスを潰しちゃう可能性もあるよ」

 「そんなの私には関係ない世界のことだよ。もちろんなっちゃんは世界に羽ばたくスポーツ選手なわけだからどっかで配慮する必要があるけどね」この場にいない棗昌は将来を期待されているスポーツ選手なので、その名前を汚すようなことは許されない。

 「それはまさか登場人物の輪郭を思い出せないからっていう作者への配慮?」鈴木赤は恐る恐る尋ねてくる。

 「それを言い始めたらこんな大風呂敷を広げたりしないよ。こんな込み入った話、どう考えても面倒じゃんか」援護にならない援護射撃が始まる。

 「おぉ、そうだな。何かあれば2ヶ月くらい間を開けちゃえば卒業シーズンと被って有耶無耶にできるしね」鈴木赤は逃げ場を断つようでありながらも、誰かしらの手の内を明かすような発言をする。

 「大学にまで上がっちゃうと選択の自由度が増えるから今の内に少しでも燃料投下をしておいた方が良いのかもしれないね」さらに手の内を広げ、はっきりとした傷にはならない程度のえぐり方をする。

 「卒業までも、卒業してからもノープランだけど、ひとまず近い内に今後の段取りを考えてみようよ。ダメならダメで良いんだしさ」

 「ありがとう。でもあゆはなんでそこまでしてくれるのさ」

 「それはあゆとまた作品を作ってみたいからだよ」

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