第46話「夏休み」
遂にお笑いコンテストまで残り2週間を切った。お盆を挟んで2ラウンド、夏休み明けに最後の1ラウンドが行われる。1ラウンド目は地方予選、2ラウンド目は関東予選、そして3ラウンド目は9月に入り新学期が始まってから行われる。
ちなみに、地方予選に進む前に、まず動画での審査がある。決勝戦が中継で行われるとのことなので、どれだけ映像映えするネタを持っているかというところも審査基準のひとつになるのだろう。
地方予選のネタは動画審査用に提出したネタであることが求められ、それ以降の舞台では毎回新ネタを準備する必要がある。関東予選以降はネタの事前検査が入らない為、ぶっつけ本番において世間であまり良く思われない言葉や放送禁止用語が連発される可能性があり、また全国大会に至っては配信中継が行われるので、一度は大人の目が入った方が良いような気もする。
しかし主催者陣営がその辺りに疑問を抱かないようなのでヨシとしよう。若い芸人程、配慮の行き届かない芸をやりガチだが高校生のお笑いという括りである以上は大目に見てもらえるのだろう。
「配慮が行き届いてこそ、芸の道を立派に歩むことができる」鈴木赤は常日頃から豪語している。
「大きなスポーツ大会の開会式の演出なんかを任されても安心だね」そんな鈴木赤をつついてみる。
「そのつもりで書いている。今は何でも記録する世の中だからね。私たちのささやかなネタですら世の中に対して永遠に開かれたものとなる可能性がある。例えばそれで傷つくのが私だけなら百歩譲ってまだ良い。だけどその被害が見てくれているお客さん、ひいては一緒にネタをやってくれているあゆやなっちゃんにまで及ぶことを考えると胸が痛む。その辺りはきちんと考えているからこそ、今のうちからハメを外すつもりはないよ」
「流石は赤ちゃんだね」棗昌が言う。
「予選、関東、全国用のネタは3本とも過激なネタは含んでいないよね。それでももしかしたら赤ちゃんのストックのいくつかには攻め気味のネタもあるんじゃないの?」率直に聞いてみる。
「強いて言うなら開会式で華々しい出演をしたメダリスト候補の選手がいざ本番でオオコケして入賞まであと一歩みたいな結果に終わったらどうなるだろうとか、さんざんCMで煽られた選手が全然活躍しなかったら何て言われるんだろうとかかな」鈴木赤は何でもないように言う。
「ピンポイント過ぎてダメだ」思わずツッコんでしまう
「あとは元選手で現解説の人が今の若い選手たちを批判している様とかかな。あのままだと間違いなく老g」「そこまでだ」流石に止めてしまう
「大きなスポーツ大会ネタが受けるのは今だけだし、そのネタをまんま使うと間違いなく余計な火種になるよ」
「聖火とかけているわけか」
「うまいこといったつもりか」
「その火種は意外に響くぞ、的な」
「彼はまだまだ現役の選手だけど、ある意味で“ご立派な”部外者だよ」
「なぜ笑うんだい? 彼女のネタ作りは上手だよ」
「スポーツは同じだけど、もはやスポーツ大会とは全く関係がない。それにだけど、仮に誰かを笑わせられてるんならそれはもはやネタ作りが上手なんだよ」
「スポーツネタが流行りなの?」棗昌が鈴木赤に尋ねる。
「今しか書けないものもあるかなと思ってさ。その時々で書いてはストックしておくんだ。いつか見返した時にそれが面白いか面白くないかの判断はできるわけだから、とにかく書いて書いて書きまくっておくってやつだね」鈴木赤は案外まともなことを言う。
「じゃあこのコンテストに向けた戦いの中でも並行してネタは書き続けているのね」率直に思ったことをぶつけてみる。
「ネタを考え続けていた方がいつでも頭が働くようになるし、かえってネタの披露にも良い影響を及ぼすんだよ」
「完全なお笑い人間だね」棗昌が言う。
「受験生にあるまじきだな。まぁ受験なしでも何とかなりそうだけど」鈴木赤は余裕そうな感じで言うが、毒やトゲは一切ない。
「その発言にすら毒があるし、そういうやつが順番に落ちていくんだ」一応ツッコんでみる。
「落選でもそれが一等賞なら私は嬉しいけどね」鈴木赤が言う。
こういうところに惹かれるからこそ、鈴木赤の発想についていこうと思うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます