第42話「白状」

 森見先生は実は鈴木赤の親類であった。2人の詳しい関係性について鈴木赤の口から明かされることはなく、また森見先生も多くを語ろうとはしていなかったが、恐らくかなり近しい親類なのだろう。この学区では教師と生徒の関係にある者でありかつ親族であるものを同一の学校においてはいけないという暗黙のルールがあるらしくこれがバレてしまうと森見先生はこの学校を離れなくてはならなくなるそうだ。本人曰く、

 「そんなのはあくまでも暗黙のルールでしょ? 私にとっては知ったこっちゃないし、別の学校に行けって言われたらおとなしく従うよ。これはあくまでも仕事なんだからね。そりゃもちろん寂しいっていう気持ちはあるよ。こうして昌が全国優勝してくれる程頑張ってくれたんだから。私は何もしてないけどさ。でもせっかく教え子がここまでやってくれたんだから、卒業するまでは見守ってあげたいじゃん。それに」

 ここから先は鈴木赤の

 「葵姉うるさい」という一喝で強制的に打ち切られることになるのだが、これだけの会話でも2人の関係性を説明するには十二分であった。

 「葵姉・・・葵ちゃんはどういうつもりかわからないけど、うちの方はあまり負担をかけさせたくないってことでおとなしくしてるんだから、そっちも少しは協力してよ。1年我慢すれば私は卒業するんだから、もう少しの辛抱だよ。こんなちっぽけなことで転任させられたら面倒でしょ」

 最初から大人しく白状してさっさと転勤すれば良かったものをどうしてこうまでして2年以上も隠していたのかは良くわからないが、そこには大人の事情があるのだろう。これ以上は触れないでおいてあげよう。

 「どうしてすぐに学校に報告しなかったんですか。森見先生はそこまでこだわりがないんですよね」棗昌が空気を読まずに質問をしてしまった。

 「ちょっとなっちゃん」思わず止めようとするが、森見先生はそれに答える。

 「実はね、この学区内の先生が全員血縁関係にあるんだ。だからこれがバレるとなると赤がこの学区から出て行った方が早いんだよ」

 鈴木赤は思わぬ告白に絶句している。森見先生を守るために親類が口裏を合わせているのかと思いきや、実は黙っていなければ鈴木赤が損をする仕組みになっていたのだ。

 「それは流石に大々的過ぎる犯行でしょ」呆気に取られてしまい、人を犯罪者呼ばわりしてしまう。

 「だからこそ組織的というか一族的に赤をかくまってるっていうわけ。言うも言わぬもあなたたち次第だけど、何ならこの地区の教育委員会の主要メンバーも親戚だらけだから、報告するならもう少し上の方にしなきゃダメだよ」森見先生から謎のアドバイスまで頂いてしまう。


 そんなことが判明してから間もなく1週間が経過しようとしているが、鈴木赤も森見先生も毎日学校に来ている。当然、私も棗昌も密告をするつもりがなかったので、立ち聞きさえされていなければ何事も起こるうるはずがないのだ。

 そして鈴木赤はその日以来、ボリュームのつまみを一段階下げたかのように存在が小さくなったような気がするのはきっと気のせいではないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る