第37話「シェルター」

 「富士山が噴火したとして、私たちはどうなるんだろうね」鈴木赤が漠然と言い出す。

 「規模によるんじゃないかな。溶岩に飲み込まれるかどうかもそうだけど、火山灰なんかもきついらしいからね。火山灰なんてそれこそ花粉みたく遠くまで運ばれちゃうらしいから、富士山なんていう高い山から飛ばされてきたらこの辺りもいくら千葉だからと言って安心できないだろうし」思いつく限りの意見を出す。

 「誰かが掃除しないとずっと残るみたいだからね。洗濯物は当然ダメになっちゃうし、車とかの隙間に入り込んだりしたら故障しちゃうんじゃないかな」棗昌も意見を口にする。

 「いっそのことシェルターかなんか買っておいて、家財道具は全部そこに保管しておくのが良いよ」不安そうな顔をする鈴木赤に提言してみる。

 「そんなお金はないし、そもそもそんなことをしたら自分だけは助かったとしても、他がダメになったら絶対孤立しちゃうよ。インフラも止まっちゃって必要な物資も手に入らないとしたら一巻の終わりだね」鈴木赤は不安マシマシで言う。

 「何かそんな創作もありそうだけどね」昔そんな漫画を読んだことがあるような気がする。

 「いっそのこと不死の命まで与えられちゃったりして。そうしたらどうやっても生きていけないから次の世界での神になれるよ」棗昌も同じ漫画を読んだことがあるような意見を言う。

 「仮にそれが全部実現したとして、いったいどんな規模の噴火なんだろうね」最悪の被害を想定しがちだが、そうなる場合の自然災害の規模やその発生する確率まではあまり考えたことがなかった。

 「隕石とかが降ってきたら結構リアルに起こりうるよね」棗昌が補足する。

 「そうなったら世界の金持ちが各地でシェルターに引きこもって極々少数の人類だけが助かるというわけだ」そのような世界を想像して口にする。

 「ノアの箱舟が各地で現れるのか。全員がうまく意思疎通できるなら一ヶ所に集まってそこから人類を再スタートするっていうのもありだとは思うけど、実際問題言葉が違うからコミュニケーションを取るのが大変だろうね」鈴木赤が想像力を発揮させて言う。

 「今度はバベルの塔みたいな話になったな」棗昌が言う。

 「そんな話もどっかにありそうだけどね。B級映画監督か漫画か小説の同人で世に出ていそう」世の中には様々な創作が存在し、当然お話が被るなんて言うことも頻繁に発生している。

 「備えあれば憂いなしなんて言うけどさ、備えすぎても憂いは出てくるよ。千葉どころか日本人で助かったのが自分一人だけだったなんていうことも十分ありうるしね。もし他に助かったやつがいたとしても、そいつが狂人だったら一巻の終わりだよ。一生奴隷みたいな生活をさせられるかもしれないよ」鈴木赤が突飛な意見を出す。

 「弱肉強食の世界が爆誕するのか」棗昌が言う。

 「生き残りをかけて戦わないといけないから強力な武器もシェルターに入れておかないとね」鈴木赤の妄想が走り始める。

 「仮に他に生き残ったのがアメリカ人だとしたら奴らは銃社会に生きているから勝てるわけがないよ」銃社会によって力業で捻じ伏せられる様が容易に想像できるが他意はない。

 「ナッパに出くわしたカールおじさん風の農民みたく農具を片手に強敵に立ち向かわなくちゃね」鈴木赤が言う。

 「カールおじさんの持っていたのはライフルだよ」棗昌が訂正する。

 「カールおじさんはライフルになんて手を掛けないよ。あれはあくまでも“風”なだけだから」鈴木赤が熱くなって細かい指摘を加える。

 「Pragmatische Sanktionとか出しちゃうのかな」棗昌が言う。

 「プラグマーテッセ・ザンクチオーンって言えよ。発音が良すぎて逆にわかり辛い。それにそれはカール違いだ」鈴木赤が即座にツッコむ。

 「今のはまずかったよね。日本の在り方についてのブーメランになっちゃうし」棗昌が危うい話を始める。

 「ありもしないブーメランを生み出すな。女系を認めて強引に権力を世襲制にしたそれとこれとは話が違う。ただでさえ公安に目を付けられてるんだから余計なことは言わないでくれ」鈴木赤も負けじと不穏な話を始める。

 「穏やかじゃないね。そもそも赤ちゃんはどうして国からマークされているの」引っかかる部分があったので一応ツッコんでおく。

 「最近ネタの練習ができてないからさ、夜な夜な近所の田んぼに繰り出してこっそり練習しているんだ」鈴木赤が照れ臭そうに言う。

 「それはもはや公安じゃなくてその辺の警察でしょ。近所迷惑になることだけはよしておきなよ」遮蔽物がない分響きそうなことは容易に想像できる。

 「じゃあさ、うちに広い空間があるからそこで練習して良いよ。母屋から少し離れたところにそういう場所を作ってあるんだ。災害があった時用のスペースっていうことらしいんだけど」棗昌が言う。

 「「ノアになれるじゃん」」

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