第36話「振りスクール」

 「最近ネタ合わせができてないよね」鈴木赤が言う。

 「中間試験が控えてるしね」試験期間中は放課後に教室が使えなくなる。部活動は軒並み中止になり、図書館は出入り禁止となる。学業に専念するようにという学校側からのメッセージが込められている。

 「教室が使えないのは大きいね。公民館とかも借りられないことはないけど、意外と高いんだよね」鈴木赤は悲しそうな雰囲気で話す。

 「私も調べてみたんだけど、3人で借りるとして割り勘にでもすればそれなりに安い金額にはなるけど、安くても1時間で大体500円くらいするんだよね。1人150円強にはなるけど、それでも痛いな」

 「いつかは150円くらい痛くも痒くもないようになるんだろうけど、今の状況からしたらその金額が惜しいんだよね。それだけあればちょっと良いおにぎりを買えちゃうんだから馬鹿にできないよ」鈴木赤が言う。彼女の意見には全面的に同意できる。そもそもうちの高校はアルバイトを禁止されているので収入については家族に頼るしかないはずだ。

 「ドラマや漫画の高校生たちって一体どこからあんなお金が湧き出てくるんだろうね」疑問を口にしてみる。

 「きっと描かれていない裏で悪いことをしてるんだよ」鈴木赤が悪そうな顔をして言う。

 「例えばどんな」

 「脱税とか」鈴木赤は短く答える。

 「相応の収入がないとできないはずだけど」

 「裏で経済を回しているんだよ。彼らの余裕はそういう背景的な金銭面でのゆとりから来ているんだ。じゃなきゃあれだけ真面目に青春になんて打ち込めないよ」鈴木赤が真剣に言う。

 「まぁ何をするにもお金はいるからね。私たちの遊びなんて所詮ウインドウショッピングくらいのもので、あんまり買い物をしないし、基本的には昼ごはんの後から晩ごはんの直前までのお金がかからない範疇でしか遊ばないしね」

 「買い食いとか憧れるよな」鈴木赤が羨ましそうに言う。

 「じゃあさ、賞レースで優勝してその賞金で買い食いしまくろう」

 「そうと決まれば、ささやかな青春を楽しむべく優勝を目指そう」鈴木赤がいつになく元気に言う。

 「ごめん遅くなっちゃった」そうこうしている内に棗昌がやって来る。所属している部活動の件で顧問と話があるということで彼女を学校近くの公園で待っていたのだ。今は校内にいるだけで教師から追い出されてしまう。この公園も学校の目と鼻の先にあるのでどちらかと言えばよろしくはないのだが、放課後になってすぐなのでまだ教師たちは学校の外の見回りには出て来ない。

 棗昌は到着するなり、黒いブリキ風のケースをポケットから取り出し、中身を手のひらに開け、それを口に放り込む。

 「それなぁに」鈴木赤が魚のような目をして棗昌を見る。

 「フリスクだけど」棗昌はわけがわからないと言った感じで心配そうに話す。

 「フリスクってもうちょっとあれじゃん、白くて角っとしたプラスチックの箱じゃん。それはなんかメタリックだし、黒いし、中身もなんかちょっと大きく見えたけど」鈴木赤の声が震えている。

 「なんかフリスクNEOっていうみたいね。普通のよりはちょっと高いんだけど、粒が大きいし味もしっかりしている感じがするからおいしいよ」

 「「ブルジョワだ」」


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