第33話「ご報告」

 「大物芸能人が結婚したりするじゃん。あれって何なんだろうね」またしても鈴木赤が唐突に言う。

 「同僚と結婚するなんてザラにあることじゃん。しかも芸能人同士だよ。他に属しているコミュニティでもあればそこで良い出会いがあるかもしれないけど、そんな閉鎖的なところで付いた離れたがあるのは簡単に想像が付くよ。むしろそれがどうしたって感じだね」求められている答えではないのだろうが、思い付いた平凡な答えを口にする。

 「ここまでして誰にも撮られずに来たって言うことがすごいじゃん。ましてやあの2人については2人共今をきらめくトップバッターなんだから、スキャンダルを掴めないっていう方がおかしいよ」鈴木赤が真面目な顔をして言う。

 「専用のマンションかなんかがあってこっそり暮らしてたんだよ、きっと。所属事務所がそういうのは宛がうんでしょ。芸能人同士とは言え惚れた腫れたってのを止めることはできないんだからさ。その中でいちゃこらされたら誰にもわかんないって。そもそもその辺を歩いてたりなんかしたらリークされちゃうでしょ」棗昌が興味深そうに言う。

 「その辺を2人揃って歩いているなんていうことはまずなさそうだよね。ファンでなくとも誰かしら気付いちゃうもんね。しかも女優さんの方は背が高いっていうから嫌でも目立つだろうし」一般的な意見を投じてみる。

 「両方じゃないかな。用がなければマンションから出ないように指示を出しつつ、マスコミには先に情報をリークしておく代わりに公式の情報が出るまでは黙っていて下さい的な感じじゃないのかな。彼らにもスポンサーはわんさかついているんだし、そういう人たちを敵に回したくはないよね」棗昌は裏を暴こうとするかのような見解を口にする。

 「なんにせよ私たちとは違う考えを持っていて、想像もつかないような世界に暮らしているっていうわけだ」鈴木赤がしみじみと言う。

 「でも赤ちゃんはそういう世界に今後足を踏み入れようとしているわけでしょ。下手したら私たちを巻き込んで」棗昌が鋭い指摘をする。鈴木赤の目指しているものはお笑い芸人たちをまとめる事務所の設立であり、さらに言うとそこで彼女が満足するコントの脚本を書いては所属する芸人にそれを演じさせようという大いなる野望を持っている。その第一ステップとして芸能界で人脈を作るだのどうだの言っていた。そうなると芸能界のしきたりから逃れるのは難しかろう。

 「その辺はあんまり考えてこなかった。と言うよりも考えたくなかったんだ。良いことだけを武器にしてガンガン進んで行こうと思ってるから、負の部分は全力で回避していくよ」鈴木赤は強がって言う。

 「そういった魔力があるからこそ芸能界は怖い所でありつつ、辞められないだけの魅力があるなんていう話も聞くよね。いくら赤ちゃんとは言え度、考え方がそこ仕様に切り替えられちゃうんじゃないのかな」心配して言う。

 「私は大丈夫だ。目標がある限りは無敵だ」鈴木赤は自信満々に言い切る。頼もしさも無限大だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る