第32話「新世代」
「第何世代とかってあるじゃん」鈴木赤に話しかける。「ああいうのってさ、赤ちゃんは気にしたりしてるの」
「特段気にしたことはないかな。私たちがデビューした時は私たちが何世代であろうと私たちが新世代だって言い切るし、若手が出てきても私たちが新世代だって言い切るよ」
「いっそのことトリオの名前を“新世代”にしちゃう?」棗昌が提案をする。そう言えばネタの練習だけやたらとやっていて、グループ名については何も考えていなかった。
「いいね、じゃそれで決まりで」鈴木赤が興味なさそうに言う。
「テキトー過ぎないかい」あまりのそっけなさに思わず驚いて発言する。
「わかりやすくて良いじゃん。それにどんなに名前にこだわったところで面白いやつらの名前は自然と知れ渡っていくし、印象に残らなければ簡単に忘れられていっちゃうよ」鈴木赤は簡潔に説明する。
「赤ちゃんにしては珍しく冷静だね。いつもならもっと熱く語るじゃん。何かあったの」棗昌が心配そうに聞く。
「そう言えば肝心の名前すら決めてなかったと思ってね。ネタばっかに気を取られてて、他にも考えておくべきようなことがあるんじゃないかなって」鈴木赤がいつになく真剣だ。もしかするとネタ合わせの時以上に真剣かもしれない。
「それは失礼すぎるでしょうが」鈴木赤が人の心を読み、ぷりぷりして言う。
「私にはあゆの心は読めないけど、赤ちゃんの反応で何を考えたのかはわかったよ。でもさ、本番までもう少し時間があるんだしゆっくり考えて行こうよ。とりあえず私が思いつく範疇だと”衣装”じゃないかな」棗昌が言う。
「制服で行っちゃう?」提案してみる。
「制服だと今後も活動するって考えた時に邪魔になっちゃうんだよね。だから衣装にするのは制服以外が良いかなって。もちろん単独でやっていくって考えた時にもある程度イメージ的な意味で支障が出るかもしれない。それからメンバーカラーみたいなのを決めちゃっても後々やりづらくなるんだよね。そうなると全員お揃いのパーカーかスーツで良いんじゃないかなって思うんだ」鈴木赤が考えながら話す。
「冷静過ぎて怖い。さては偽物か」思わず本音を漏らす。
「まぁ赤ちゃんは発明家でもあるわけだからね。何かする時に細かいことにまで気を配るのもうなずけるよ。一昨日までの私だったらあかちゃんが発明家ってことを知らなかったから、ただのズボラな女子高生にしか思っていなかったけど」棗昌も便乗して失礼な発言を重ねる。
「私はただのズボラな高校生だよ。ズボラでケチだから美容院代をケチりたくて謎のクリームを作ったりしているんだよ」
「それはそれで納得がいくけど、それはそれとしてすごいことだよ」棗昌が感心して言う。
「でも赤様はなしだぞ」鈴木赤はぴしゃりと言う。
「昨日はずっと赤様って呼んでたよね。赤ちゃんが否定しまくってようやく落ち着いたけど、何かまたぶり返しそうだよ」鈴木赤は慕われるような扱いになれていないのか、棗昌のしつこめの謎ノリにひどく抵抗していた。その抵抗の甲斐もあり今日は一度もそのノリを持ち込んでいないが、少し雲行きが怪しくなってきた。雲行きが怪しいのは天候だけでおなかいっぱいだ。
「友達を傷つけるような真似はしない。安心しな」棗昌は自信満々に言う。
「さっきから大分ひどいことを言っているけどな。しかも2人して」
「「気を付けまーす」」
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