第30話「スピッツさん」

 「そういやさ、赤ちゃんってどうやってネタを作ってるの。パクリ?」棗昌が言う。

 「パクリなわけあるかい」鈴木赤が即座にツッコむ。

 「考える間もなく訂正したね。これは真っ黒だ」追撃を加えてみる。

 「人聞きが悪いことを言うな。全部オリジナルだ」鈴木赤がムキになって答える。

 「でも参考にしている人はいるんでしょ」棗昌が一歩引いた目線で問う。何もないところからネタを編み出すということはできない。誰かしら参考にしている人がいるはずだ。私自身も非常に気になる。彼女の原動力は一体何由来のものなのだろう。

 「特にこの人みたいな作品を作ろうって言うのはないんだけどさ、強いて言うなら橋田壽賀子さんかな」鈴木赤は考えながら口にする。

 「めちゃくちゃドロドロ系じゃん。そんな要素どこにもないじゃん」思わずじゃんを2回続けてしまう。

 「橋田壽賀子って渡鬼とかの人だよね」棗昌が聞く。

 「橋田壽賀子“”さん“”だろ。呼び方には気をつけろ。どこで見てるかわからないぞ」鈴木赤が激昂して言う。

 「確かに今となってはどこで見ているかわからないけど、敬称ってそんなに大事かな。作家なんて呼び捨てで呼ばれるのが常じゃん」棗昌が言う。

 「敬称はとても大切だ。スピッツとか言ってみろ。速攻で燃やされるぞ」鈴木赤は目の前で火事が起こっているかの様に言う。

 「あれは発言者が20歳を過ぎているから燃えただけであって、未成年である私たちには無関係だよ。ババアは何を言っても炎上するようにできているんだ」燃料を投下してみる。

 「別の火事が起こりそうなことを言うな」鈴木赤の怒りは留まることを知らない。

 「でも10代でも余計なことを言うとすぐ燃えるよね」棗昌が言う。

 「スタッフいじりとかが一番やばいよね。反論できない人をネタにしたらすぐに叩かれちゃうよ」どうして照明さんになろうと思ったんだろう?なんて口が裂けても言ってはいけない。

 「橋田壽賀子ももはや反論できないもんね」棗昌がしみじみと言う。

 「“”“さん“”“を付けろ。後、橋田様をいじるな」鈴木赤はもはや崇拝の域に達していた。

 「どうしてこの人は自分につらく当たるんだろう」棗昌が純粋な目をして他人事のように言う。

 「その後の台詞が一番大事なんだよ。そこを端折ると真逆の意味になるじゃねぇか」あまりの怒りで語尾まで変わってしまっている。

 「赤ちゃん、落ち着きなって。橋田さんもきっとそんなことは気にしてないよ。むしろ今こうして赤ちゃんが一生懸命守ってくれていることに対して申し訳ないと思っているよ」簡単に宥めてみる。

 「あゆの言う通りだね。橋田様もこんなこと望んでないよね。ちょっと熱くなりすぎちゃったよ」

 ((ちょろすぎる))

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