第28話「ネタ合わせ」
「良い感じだったね」鈴木赤が嬉しそうに話す。
「しかしあゆは本当にすごいな。昨日渡されたばかりの台本を全部覚えて来たんだろう」棗昌が驚いた様子で言う。
「もちろん深夜までかかったよ。解散して夕方に家に着いてからはほとんどずっと台本にかかりきりだった」かなりきつかったのは確かだが、それでも台本の面白さに惹かれて全く飽きることがなかったというのも事実だ。
「こうして3人で読み合わせができたっていうのもまるで奇跡のようだよ」
「奇跡のようだって言う割には2人ともトリオ用の台詞を覚えていたじゃないか」
「まぁね。いつかはこの3人で舞台に立てるって信じてたからね」鈴木赤は自信満々で言う。
「私も同感。あゆはきっと口説き落とされるってうっすら感じていたよ。まさかこんなに早く承諾してくれるとは思ってもみなかったけどね」棗昌が言う。
「ところでどのコンテストに出るか決まっているのか」ネタ内容しか聞かされておらず、トリオとしての目標は一切聞いていなかった。
「目指すのは高校生向けの大会だよ。漫才コンテストっていうのが9月にあるんだ。受付開始が結構ギリギリだからきっちりネタを詰めてからの応募っていうことになるね」
「せっかくだから全年齢対象のものにしようとかは思わないの」ズバリの質問をしてみる。ゆくゆくはプロを目指すというのなら初っ端とは言え年齢枠のない方を選ぶのが筋ではないのだろうか。
「それも考えたよ。少しでも背伸びをするべきかなって。そういうところに出ていくっていうのは確かに私にとって良い経験になる。2人にとっても身に付くものが確実にあると思う。でも仮に良い所まで残ったとして、例えばメディアに出ることになった時にどういう肩書が付くかを想像したら、高校生向けの大会で良いやってなったんだよね」鈴木赤が一字一句ひねり出すかのように慎重に話す。
「色物として見られるのが嫌ってことか」棗昌が答える。
「そういうことだね。高校時代面白かったやつは大成しにくい。もちろん今活躍している芸人さんたちは意外と学生時代からはしゃいでいたタイプが多いみたいだけど、そういう人たちが作る世界の面白いっていうのと、多くの人に楽しんでもらえるお笑いっていうのは少し違う気がするんだ」
「世間が前者側に寄り始めているってことなのかな」棗昌が考えながら言う。
「どちらかと言うと前者も後者も両方とも受け入れられるようになってきているんだ。昔から活躍しているけどきちんとした話術を持っている芸人さんが今でも受けるっていうのはそういうことでもあるんだよね。要するになんでもかんでも面白いって言っちゃう時代にあるんだ」鈴木赤が鋭く分析をする。
「高校生だけどプロの人たちに混じることができましたっていうのと、高校生の世界で実績を残しましたって言うのとじゃ受ける印象が違うと思うんだよね。面白くて当然っていう印象と、着実に階段を上ってきましたっていう印象と。もちろん世の中の動向が読めない以上、今後の成り行きでどっちが面白いと思われるかもわからない。だからこそ自分たちがどういう目で見られるかを考えたら、もう後は好みの問題っていうことになってくるね」私らしくないことはわかっているが、鈴木赤の分析を推し量り答える。
「つまり正解がないからこそ、勘でいくしかないっていうことなんだ。だからこそ私は高校界のお笑い王になる」
「「ルフィか」」
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