第27話「部門」
「なっちゃんってこれまでも優勝とかしてたんだっけ?」好奇心から尋ねてみる。
「今回が2回目だよ。そもそも大会自体が全然開かれない種目なんだよね。基本的には年に1回開かれる全国大会があって、そこに向けて地方予選が開かれるっていうのが本筋なんだ」棗昌が答える。
「じゃあ高校生活を通して大会に出るチャンスは3回しかないってことなのか」鈴木赤が言う。
「全国大会に向けた選手登録が4月の時点で行われるんだ。だから実質1年生は参加できないことになってる」
「じゃあ大会に参加できるのは高校生活を通して全部で2回ってことになるね」鈴木赤が言う。
「優勝が2回目ってことはもしかしてなっちゃんは去年も優勝したっていうことなの」驚いて確認をしてしまう。
「去年も優勝したよ」棗昌は照れ臭そうに答える。
「出場した大会全部で優勝してるってことだよね。それってもはや偉業じゃん」思わず感心してしまう。
「全部って言っても2回だけだけどね」棗昌がこれ以上になく縮こまって言う。
「最高金賞とかじゃないよね」鈴木赤が唐突な質問を挟み込む。
「それ何」唐突な質問に対して簡素な質問を重ねてしまう。
「最高金賞か金賞しか賞が存在してなくって、しかもその賞も部門ごとにかなり細分化されていて、出場さえしちゃえば取り合えずどこかしらには引っかかる的なシステムじゃないよね」
「失礼すぎるでしょ」これにはツッコまざるを得ない。
「一応聞いておかなくちゃと思ってさ。小学校の時とかはこういう偉業が定期集会で逐一発表されていたけど、高校ではそんな集会半年に1回じゃん。だから私たちが知るよりも先にそこで発表されたら嫌だななんて思って。“棗昌さんは全国部門なんちゃら類なんちゃら目において最優秀の成績を残されました”なんて言われてもビミョーな感じになるじゃん」
「なんちゃら類なんちゃら目って、それは生物の話でしょうが」分かりやすいフリについ応えてしまう。
「で、どうなのさ。実は誰もが優秀な成績を収められるシステムだったりするのかな」鈴木赤がみっともない表情で聞く。
「失礼すぎると言いたいところだけど、半分当たっていて、半分は間違ってる。まず部門が細分化されているっていうことはない。からあげの部門みたく地域がどうとか業務形態がどうとかタレがどうとか、そんなつまらない括りはないよ」
「そんな括りがあったりしたら逆に面白いけどね」高校レベルでそこまで細かく区切られていたとしたら何かしらの利権のにおいを感じざるを得ない。
「ただ参加人数がかなり少なくて全国のプレイヤーも合わせて1,000人程度しかいないんだ。しかも実質高校生しか存在していないようなものだからこの1,000人っていうのがそのまま高校界隈の競技人口になるんだ」棗昌は真剣な眼差しで話す。
「競歩の人口じゃん。十分多いよ」思ったよりも多くの人が携わっていることに改めて驚く。
「大学にもその競技があれば良いのにね。いっそのことなっちゃんが作ったらどう。大学生のサークルとしてでも社会人グループとしてでも」鈴木赤が言う。
「私もそうなんだけどね、みんな高校生活の中で完結させるつもりで活動に励むんだ。だからこそ次に繋がらないし、下の代もあまりやりたがらないんだよね。今だけっていう限定要素もこの競技の魅力のひとつだったりするんだ」
棗昌の気持ちは非常に良くわかる。今だけだと思うからこそきちんとやりきろうという気持ちになるものだ。高校生活が1年を切った今、残された時間で何ができるかを考えてみることは多々ある。それこそ、鈴木赤の話に乗ってみるかどうかを考える機会も随分増えた。大学に入ってもその手の話に乗っかるチャンスはあるだろうが、今しか編み出すことのできないものもきっとあるはずだ。
「この3人でトリオを組もう」気が付いたら脈絡のない言葉を挟み込んでいた。
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