第25話「トリオ」
「私はぼちぼちやって来たし、このままいけば問題なく指定校の枠を手に入れることができる。やる気のある人は指定校の枠が与えられるところよりも上のレベルの大学を目指す。やる気のない人は指定校の枠を手に入れることができない。だから指定校の枠の中でも上位の内のどれかひとつは私のものになる」画面の向こうの鈴木赤が得意げに話す。そして続ける。
「なっちゃんは全国レベルの選手だ。だから推薦枠でどこかしらには入れる。あゆは言わずもがな超人だから一般入試どころか下手をするとAOでどっかに入れるかもしれない。つまり、全員年内に進路が決まるかもしれないというわけだ」鈴木赤が熱弁する。
「そうだね」一応返事をしておく。
「珍しく私がこんな長台詞を喋ったのに薄すぎないか、反応」
「良く頑張ったな」棗昌が表情もなく口にする。
「みんな冷たすぎないか。高校最後の年をこんな風にして気楽な気持ちで過ごすことができる人間は一握りしかいないはずなのに、そんな一握りの人間が3人も、こんな風にしてZoomでお話をしているのは奇跡じゃないか」
「余裕があるからZoomをしているんじゃないか」思ったことを口にする。
「それに私だって全国を勝ち抜けたからと言っても、蓋を開ければ競技人口の少ない世界だからね。推薦をもらえる程のご利益はないよ」棗昌が答える。
「私だってAO入試で勝ち抜ける程の才能は持ってないよ。どちらかと言うとなっちゃんの方がAO入試は抜けやすいんじゃないかな」棗昌に話を振り返す。
「競技自体への参加は容易でも、一応全国で一番になったわけだしね。AO入試を受けてみる気はなかったけど、受けるだけの価値はあるかもしれないね。それこそ人生経験のひとつとして」棗昌が淡々と口にする。
「人生経験のひとつとしてAO入試を受験する、か。かっこいいね」鈴木赤は遠い目をして言う。
「じゃあさ、赤ちゃんも受けてみたらどう、AO入試」うらやましがるくらいなら自分で受けてみれば良いのだ。
「私に才能なんてない」鈴木赤はそう言うと一息置いて続ける。「そう思ってたけどさ、ひとつ抜け道があるんだ」
「なんだ。裏口入学か」棗昌が冷ややかな目をして言う。
「そんなお金はどこにもない。そうじゃなくてさ、お笑いならどうかなって」鈴木赤が悪そうな顔をして言う。
「ピン芸人のグランプリにでも出場するのか」思いついたことを口にする。
「惜しい。そうじゃなくてさ、トリオ限定のコントの大会に出てみるんだよ。この3人で」鈴木赤は打ち明け話をするかのような感じで言う。
「脚本はあるのか」棗昌が食いつき気味に尋ねる。
「もちろんある。それもこの3人を想定したものがね」鈴木赤が声を潜めて言う。
「乗った」棗昌が即答する。
「それじゃあ後はあゆ次第だ」鈴木赤が身を乗り出して見つめてくる。
「断る」食い気味に否定した。
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