第23話「指定校」

 「あと2日しかないよ」鈴木赤が焦った感じで話し始める。

 「今日も入れるとあと3日あるでしょうが」楽観的視野を提示してみる。

 「実質2.5日ってとこかな。この0.5をどう過ごすかで残り2日のクオリティもだいぶ変わってくると思うよ」棗昌は現実的な話をする。

 「あんなにあったゴールデンウィークももう終わっちゃうよ。私のゴールデンウィークはどこに行ったんだ」鈴木赤は嘆かわしそうに口にする。

 「前半は天気が良くなかったから外出できなかったし、何日かはあゆの家に集まって受験勉強をしてたりもしたけどさ。それより会ってない時間もきちんと勉強してたかい」棗昌が鈴木赤にとって痛そうなところを突いている。

 「実は部活に顔を出してたんだ」鈴木赤が白状したように言う。

 「遂にピン芸人として活動するってことか」思わぬ発言に対して反応してしまう。あれだけ下らないやつらの集まりだと誹っていたのにも関わらず、通常ならば引退間際というこのタイミングで部活に行くというのは、一体どのような心境の変化なのだろうか。

 「内申点が欲しくてさ。私には受験の試験に向けて精を出すっていうのが中々厳しいような気がしてて、それなら指定校をもらった方が効率的かなって思ったんだ」鈴木赤が恥ずかしそうに話す。

 「今から頑張っても手遅れだろう。少しくらいなら情けはかけてもらえるかもしれないけど、これまで頑張ってきたやつに適うはずがないだろう」棗昌が正論を口にする。指定校推薦の枠を手に入れる為には日頃の校内での態度が物を言うし、何よりも定期テストのスコアも大切になってくる。これから卒業までの間の活躍に期待したところで3年分の成績が総合的に急上昇することはあるまい。

 「こんなこともあろうかと、実は定期テストの点だけは上位に入ってたんだよね」鈴木赤が二度聞きしてしまいそうな告白をする。

 「キャラと違い過ぎるだろう」棗昌が適格なツッコミを入れる。

 「でも確かに赤ちゃんの成績って誰もまともに聞いたことがないよね。毎回ダメだった的なノリをしてただけで答案を見せてくれたことはないもんね」思い返せば鈴木赤の悲惨な叫びは幾度となく耳にしていたものの、実際の成績はきちんと示されたことがなかった。むしろ毎回聞かないでほしいという意思表示を貫いていた。

 「もちろんあゆ程の点数を取ったことはないよ。それでもきちんと上位はキープしてて、成績表の評価もどこかしらの指定校を狙える位置はマークしてたんだ」鈴木がとんでもない暴露をした。

 「今日もダメだったし全然勉強をして来なかったと言いつつも裏ではきちんと勉強をしているタイプの発言だな」棗昌は感心したように言う。

 「でもぶっちゃけた話、部活動への参加頻度ってそこまで成績表に反映されないだろうし、それにここから意欲的な態度を見せることができたとしてもそれはいくらなんでも胡散臭いよね」

 「まぁ部活の参加なんてそこまで重視されないよね。でも念には念をって言うじゃん。それに部活には顔を出していないけど、作品自体は寄稿し続けてきたんだ」鈴木赤はさらに打ち明け話を続ける。

 「寄稿ってどういうことだ」棗昌が尋ねる。

 「うちのモットーはお笑いを研究することなのね。ネタの披露合戦なり、賞レースに参加することなりも研究の一環なんだけど、何もネタ披露だけが活動じゃないんだ。書き下したネタ部員に公開して、それを自分たちのネタにしても良いよって言うのも活動の範疇に入るんだ」鈴木赤がこれまでの活動を説明する。確かにネタ提供も立派な活動の一部だ。脚本を書いて公開している以上は部活に参加していると捉えることができる。

 「それじゃあこれまでのサボりについても全部演技だったってことになるのか」思わず事実の確認をしてしまう。鈴木赤の謎の行動力には驚かされるばかりだ。批判されるようなことをしておきながらも、内実としては相当気を遣い完全にクリーンな行いをしていたのだ。

 「じゃあ指定校も十分射程範囲に入っているってことになるのか」棗昌が聞く。

 「まだまだ気は抜けないよ。赤ちゃんくらいの好成績を収めててもっと上に行けるような人でも指定校に飛びついてくることがあるからね。ところでなっちゃんは部活に入ってるんだよね。引退試合とかはないの」

 「あぁ、昨日全国で優勝してきた」棗昌の口からさらなる驚きの発言が繰り出された。

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