第22話「万能薬」
「なんだか久しぶりに会えたから嬉しかったよ」画面越しの鈴木赤が嬉しそうに口にする。
「不思議だよな。こうして毎日Zoomで顔を合わせているのに、いざ対面で会ってみると久しぶりな感じがするのって」棗昌が感慨深そうに話す。
「今日は予想外の雨でまともに出かけられなくなったから、急遽私の家で勉強会を開いてみたけど、2人とも帰ってからもちゃんと勉強はしたの」
ゴールデンウィーク明けから本気を出して受験勉強に励むということにしていたが、ここまで雨が続くと家で過ごす時間が多くなるのでせっかくなら今日から受験勉強を始めることにした。その決起会として私の家に3人で集まることにした。正直、私は日々少しずつ勉強をするようにはしているのだが、少なくとも鈴木赤にそんな素振りは一切ない。ちなみに棗昌は意外としっかりしているようなのでその辺りは問題なさそうだ。
人の心配をしている場合ではないが、他ならぬ親友のピンチは積極的に救済していくべきだ。そもそもゴールデンウィーク明けから勉学に励むという態度が受験生らしからぬ姿勢なのである。
「私はばっちりだよ。学年が上がった時からちょこちょこ勉強を始めてるんだ」棗昌が口にする。
「なっちゃんが薬剤師志望って言うのは初めて聞いたよ。それでも体育の成績があれだけのものなら何となくわからないこともないね」
「体育の成績のことを言われたらあゆには適わないよ。もちろん勉強も適わないけどね」
「私はどうした。スポーツテストの成績だけ見たらあゆと私は同格だぞ」
「訂正するよ。2人には適わない」棗昌が笑いながら口にする。
「わかれば良いんだ」鈴木赤はどこか恥ずかしそうに話し、そして続ける「それにしてもチョッパーの影響っていうのがすごいよね。身近な漫画がここまで影響をもたらしてくれるっていうのもまた感慨深いものがあるね」
「私もランブルボールを発明してみたいな」
「「そっちかよ」」
「そっちってどっち。それ以外ないでしょ」棗昌は意味が分からないといった風で返す。
「てっきり人を救えるとかそっちの方面だとばかり思っていたけど、まさかそこまで漫画の世界の話を持ち込んでくるとは思わなかった」予想外の動機に呆れてしまう。
「私だって実現できるとは思ってないけどさ、でもああいう風に肉体が強化できたら素敵じゃない」
「それって世に言うドーピングでは」鈴木赤が冷静にツッコミを入れる。
「そんなわけないでしょ。チョッパーが使ってるんだから良いものに決まってるでしょ」
「あいつ、海賊だし何なら藪医者だよ」鈴木赤が立て続けにツッコんだ。
「チョッパーが海賊でも藪医者でも、何にしてもああいう薬を発明することができたらきっと世の中の為になるよ」棗昌は開き直ったようなことを微塵も開き直っていない様子で話す。
「かっこよく描かれているから騙されそうになるけど、ワンピースの世界的にもああいう薬はどちらかと言うとシーザー寄りのイメージしかないな」個人的な感想を伝えてみる。
「私が“万能薬“になるんだ」
受験期ブルーなのだろうか、棗昌の存在がもはや軽くホラーと化している。
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