第21話「ホラー」

 「昨日と今日はこうしてZoomに頼ることでお互いの関係を一旦見つめ直そうとしたわけだけど」鈴木赤がもったいぶって話す。

 「恋人みたいな言い方すな」棗昌が珍しくツッコむ。

 「昨日は長い休みの初日だからたまには家でぼーっとしてみようって言うことで各自自宅待機にしておいて、今日は雨予報だからって言うんで昨日の晩、急遽再度の自宅待機にしたんでしょうが」鈴木赤の発言に対して訂正を加える。

 最近暖かいし1日くらいは家でぐだぐだしてみようということでゴールデンウィークの初日は夜のZoomで再会することになっていた。そのZoomでのミーティングの中で、本日の会合について話し合おうと決めていた。だが昨日の夜になり今日は終日雨が降るという予報が出ていたので、止むを得ず2日連続で直接は会わずZoomで連絡を取り合うという形に落ち着いた。

 「結局雨なんて降らなかったけどね」棗昌が言う。

 「春の天気予報なんて当てにならないからね。どんまい、あゆ」鈴木赤が慰めるような体で口にする。

 「いやいや、言い出しっぺは赤ちゃんだからね」誤解を与えるような言い方をされても困るが、実際はこの3人しか会話に参加していないのだから与える誤解がそもそも存在しない。

 「ところで2人とも今日は背景が落ち着いているね。というか2人の背景がどこか似ている気がする」

 「それはちょっとした気のせいだけど既視感があるとしたらそれは大正解だよ。なんと言っても今使っている背景はあゆの部屋のものだもの」鈴木赤が怖いことを平気で言う。

 「どうやってこの背景を抽出したんだよ。昨日は画面から外れた瞬間が何度かあったけど、まさかその隙にスクショでも撮ったのか」考えられる線をつついてみる。

 「そんな怖いことしないし、仮に写真を取るなら許可を得てからにするよ」鈴木赤がまっとうなことを言う。

 「じゃあどうやって私の背景と同化させたんだよ」

 「まずここに映っている画面を取り込めるようにして、その画面から人物だけを除外できれば簡単だよ。後はその画面をあゆの画面枠に設定すればあっという間にあゆの部屋の背景が完成という寸法だね」鈴木赤は罪悪感ゼロというトーンで話す。スクショを撮られる以上の恐怖でしかない。

 「赤ちゃんは賢いね。私なんてあゆのパソコンのカメラ機能にアクセスして、そこからあゆだけを除外するっていうプログラムを使ってるよ」棗昌はもっと怖いことを教えてくれた。

 「そんなものがどこかに売っているのか」私にはただ尋ねることしかできない。

 「違うよ。全部私の自作だよ」棗昌が得意そうに話す。

 「2人ともさ、パソコン系に疎いキャラじゃなかったっけ」呆れてしまってこれ以上の質問が浮かんで来ない。

 「昨日Zoomを触っていたら知らない内にできるようになってたんだ」鈴木赤が得意げに言う。

 「あゆちゃんは小学校の授業でプログラミングとかしなかったのかな。あれの発展形だよ」棗昌が言う。彼女は授業レベルで得られる技術を発展させ過ぎていて軽いホラーの領域に片足を突っ込んでいる。

 「あゆはパソコン、どこまで使えるの」鈴木赤の質問がもはや恐怖でしかない。

 「私にはね、2人のZoomの背景を元に戻すことしかできないかな」

 「あれ、なっちゃんの背景が精神と時の部屋に戻った」鈴木赤が棗昌に話しかける。

 「赤ちゃんの背景が結果発表の時の青い方の待機部屋Bに変わってるよ」棗昌が驚いた様子で鈴木赤に伝える。

 「私にできるのはこれくらいかな」


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