第20話「結果発表のやつ」

 「なんかやばいの映ったりしないかな」画面の向こうの棗昌が嬉しそうに話す。

 「殺風景な部屋だからね。何もないよ」さっき部屋を片付けたばかりだから恥ずかしいものは何も映っていないはずだ。そもそも見せて困るものなんて持ち合わせすらいないのだが、いくら仲の良い友人だからと言っても、エントロピーの高い部屋を人様にお見せするわけにはいかない。曲がっているものは全て縦にし、本棚の背表紙もきっちり揃えてどこが映っても良いように手を加えた。

 この画角には私しか入り込まないようにしているが、万が一このスマートフォンを持って移動するような事態に陥っても良いように360度に気を遣った。部屋の外までは知らん。

 「なっちゃんこそどうなのさ。なっちゃんが画角から外れた瞬間にごみ屋敷が出現するとかはやめてよ」

 「見てみるか。私の部屋、本邦初公開だ」

 棗昌が画面から外れた瞬間に真っ白の背景が出現した。殺風景どころか、何も置かれていない一面の白い世界が現れた。真冬の山奥の風景よりも白く、そして静けさを連想させる。

 「建て込み前のスタジオにでもいるのか」驚きのあまりひとまず思い付いた言葉を口にする。

 「これは私の部屋だよ」

 「紙か白いタオルでも掛けているのか」あまりにも白すぎて作り物にしか見えないではないか。

 突然、画面上の枠が白い世界ごとズレ込み、毎日のように見る顔がドアップで映し出される。

 「お待たせ。遅くなっちゃった」鈴木赤が登場する。

 「大丈夫だったかな」棗昌が鈴木赤に画面内で声をかける。

 「Zoomのインストールに時間食っちゃったよ」

 「赤ちゃんはガラケーだもんね」棗昌が茶化すように言う。

 「違うよ。SH-05Eはれっきとしてスマホだよ」鈴木赤が反論する。

 「でもジュニア向けで機能も大分制約されてるよね」棗昌が畳みかけるように話す。

 「2人ともマニアックすぎるでしょ」思わず口を挟む。

 「ってか背景白過ぎない。なんかやってんの」鈴木赤が鋭く突っ込む。

 「そうだよ、白過ぎるよ」

 「なっちゃん、もしかしてスタジオにいるの」鈴木赤が同じ件を繰り返す。

 「赤ちゃん、それ1回やってる」来たばかりで申し訳ないとは思いつつもとりあえずツッコんでおく。

 「あゆにやられてたか」鈴木赤が残念そうに口にする。

 「精神と時の部屋みたいって言われないか」浮かんできた言葉をそのまま投げてみる。

 「まさにそれだよ。私は精神と時の部屋の時間が進む版に住んでいるんだ」

 「どういうことだよ。ちゃんと説明してくれなきゃわからないよ」意味が分からなすぎる。

 「だから時間がみんなと同じように進む版の精神と時の部屋なんだよ。ってか精神と時の”家”って言った方が正しいかな」棗昌は平然と話す。

 「順番を入れ替えただけで説明になってないよ。それよりも部屋だけじゃなくて家全部がそうなのかよ。みんなどこでご飯を食べたり眠ったりしているんだ」鈴木赤が腑に落ちない感じで話す。

 「みんな思い思いの場所で食べて、寝てってしてるよ。そんなことよりさ、赤ちゃんの部屋はどうなってるの、それ」

 「何か背景が青いよね」話は切り替わったが、鈴木赤の部屋も独特の雰囲気を放っている。

 「しかもBって書いてある」棗昌が質問を重ねる。

 「これはね、Bを選んだ人だけが入れる部屋なんだ。今日はBの気分だったからこっちにしちゃった」鈴木赤も先程の棗昌と同様、平然と話す。

 「もしかしてAの気分の時は赤い部屋になるやつか」棗昌は興味津々で質問する。

 「そうそう。けど今日こっちを選んだのは赤ちゃんだから赤い部屋かってツッコまれたくなかったって言うのもあるかな」

 「「そんなツッコミはしねぇよ」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る