第17話「シャトルラン」
「この前のテストはすごかったな」鈴木赤が嬉しそうに話しかけてくる。
「なんだ、赤ちゃんが赤点取った話か」
「あれは忘れてくれ。それに小テストだから成績にはそんなに影響しない」小テストが成績に関係してこないんだったら一体何の為のテストになるのだろう。
「いちいち言い訳しなくて良いよ。私には関係ないから」
「突然冷たいな。でもそうだよね。あゆは満点だったもんね」鈴木赤は屈託のない笑顔で話す。
「突然厭味ったらしい感じになったな」真に受けるのはしょうもないので斜に構えて返してみる。
「そんな意味はないよ。いったんやめやめ、やめにしよ」突然話を打ち切られてしまった。
「それで何のテストの話だったんだ」話を振り出しに戻してみる。
「スポーツテストだよ。ほら、体育のやつ。あれはかなり楽しかった」
「赤ちゃんと私の一騎打ちだったね」
「これまではクラスが遠かったっていうのもあって一緒に体育に参加する機会がなかったけどさ、やっぱりあゆは噂通りの実力者だった」
「1日1回はこの話をしてないか。あれからもう1週間は経つぞ」
「1週間経っても色褪せない感動があったんだよ、あそこには」
「スポーツ番組みたいなことを言うな。平凡な体育館で行われたただの体育の授業だよ」
体育のスポーツテストの話を彼女は飽きもせず毎日してくる。日によっては朝と夕方に一度ずつ聞かせてくる。
「一番盛り上がったのはシャトルランだ」
「やってる身としては何も盛り上がらなかったけどな」
私と彼女だけが最後まで残り、スポーツテストの点数的にも満点をもらえるところまで走り抜けた。いつもなら満点に達した時点で終了の合図がかかるのだが、今回ばかりはそれが許されなかった。他の生徒どころか先生までもが筋肉番付のファイナルステージを見ているかのような顔付きになっていた。
「次の授業も体操着で良いからって休憩時間が丸々潰れるほど走らされたのには参ったね」
「やめるにやめられないっていうのはああいうことを言うのか」
「クラスに1人いるかいないかの体育の化け物が同じクラスに2人揃うなんて早々ないからな。私たちが仲良しじゃなかったら成立してなかった」自分で言うかという感じではあるが、鈴木赤の言うことは紛れもない正論である。
「他の種目もまぁまぁの注目され具合だったけど、シャトルランは直に出るからね。しかもその日の最終種目だったから尚のことクライマックス感が溢れてたね」
「そもそも他の種目で一位争いをした挙句のシャトルランだから余計に盛り上がっちゃうよ」
「そんな2人が運動部じゃなくて文化部に入っていること自体が受けるよね」
「宝の持ち腐れだな」鈴木赤が完全に同意する。
「ちなみにあとどれぐらい行けた」
「あと30分は行けたんじゃないかな。どれぐらいのテンポになってるかわからないから何とも言えないけど」
「私もそれくらいかな。最後まで走り切ったことがないんだ」
「私も最後どうなるのか聞いたことないな。いつも途中で終わらされてたよ」
「シャトルランってある意味存在がバグだよね。私たちみたいなのがいると種目としての意味をなさないよ」
他のスポーツは距離や時間が決まってるので確固たる終わりが存在するが、シャトルランだけは参加者の限界が訪れるまで無限に続く種目となっている。世の中にはシャトルランの代わりにクーパー走という種目がある。12分間という決まった枠内を走らされる持久走らしい。ライバル不在で1人かもしくは今回のように極少数で見せしめの如く走らされるよりはその方が目立たない分ずっと良い。どちらかと言うと種目としてはそちらを採用するべきなのではないかとも思うことがある。そもそもスポーツがそんなに好きではないので走らないに越したことはないのだが、それでも成績だけは欲しい。
「そう言えば赤ちゃんって体育好きなんだっけ。勝手に好きっていうイメージでここまで来たけど」
「どちらとも言えないかな。強いて言うならあんまり興味がない。呼ばれれば参加するけど、積極的にのめり込んでいきはしないタイプだね。あゆは根っからのスポーツ嫌いだよね。なんてもったいない」
「赤ちゃんに言われたくないよ。自分のことは一旦置いておくけど、赤ちゃんこそもったいないよ」
「そうだよね。あゆはスポーツだけじゃなくてお勉強もできるもんね」
「いったんやめやめ、やめにしよ」どこかで聞いたことのある台詞を口にする。
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