第14話「真剣な人は面白く見える」
「それにしてもさ」素朴な疑問をぶつけてみる「コントとか漫才とかを見てるわけでしょ」
「そりゃお笑い研究部だからね。プロの仕事は逐一チェックしているよ」
「お笑いを仕事として認識している高校生なんて初めて見たよ」
「私がプロの仕事を盗んでいることがどうかしたのか」
「盗んでいるかどうかはともかくとしてさ、芸人さんの言葉と考えが違うことってあるのかなってふと思ったんだ」
「みんな真剣そのものだよ。もちろん私は中途半端な人たちのお笑いは見ないことにしているからね。ガチのプロのお笑いだけじゃ参考にならないかもしれないけど、少なくともテレビや舞台なんかの一線で活躍している人たちは真剣にお芝居の世界に入っているよ。お笑いは演劇の要素も含むからね」
「良くテレビでネタをしながら別のことを考えてるなんて言う人もいるけど、あれは嘘ってわけか」
「残念ながらスクリーン越しには気持ちは伝わってこないんだけど、私が生で見た範疇では考えと口にしていることが離れている人は見たことないな。みんな仕事っていうことを理解しているだけあって必死だよ」鈴木赤はさらに続ける。「真剣な人は面白く見える」
人の頭の中を読めてしまう彼女だからこそ、お芝居に対して真剣に取り組んでいる人が魅力的に映るのかもしれない。芸人に向けた台本を書きたくなる気持ちにも頷ける。彼女の両親がストレートであるのと同様に、彼女自身もまたストレートな性格なのである。
「どう、少しはお笑いをやってみる気になったかな」鈴木赤が嬉しそうに尋ねてくる。
「いや、全く」
どう考えても今のは良い流れだっただろうが。テラハだったら確実に交際に発展してるわ」
「テレビの見過ぎだよ。あかちゃんの言葉で表現すると研究熱心とでもなるんだろうけど」皮肉を込めてみる。
「それほどでも」鈴木赤は明らかに照れている。皮肉には気付かず言葉の上辺だけを受け取ったようだ。人様の心を読むことができるからこそ、考えを読めない時に言葉に頼ってしまいがちになるのだろう。
「あかちゃん、単純にも程があるぞ」
「何のことだ」
「何でもない」
こうした点も彼女の美徳であり、余計な知恵を与えて汚点を付けるわけにもいかない。できることならば彼女には今のままでいてもらいたい。
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