第12話「特殊能力系」

 鈴木赤は間違いなくこれまで人の心を読むことができるが故の特異な体験を積み重ねている。彼女の反応がここまで冷静なものである根拠はそこにある。その体験から得られたものは私には知る由もないが、想像することくらいならできる。相手の考えを理解し、そのことを即時にズバリ言ってのけた過去も少なからずあり、それにより嫌な顔をされたことも体験として少なからずあるだろし、その反対に救われた部分もあるはずだ。そういった体験の厚みが先ほどの彼女の反応に全て表れている。


 「それはそれ、これはこれだよ。友達であることと、その力を使うことは別の次元の話だよ。だから気にしないで」


 彼女に対する期待や下心がストレートに伝わってしまう。それでも鈴木赤が私とつるんでくれるのは、そういった邪な心の脇に見え隠れする真の友情の存在があるからこそだろう。

 実際に鈴木赤と私は友人である。その上で下心が芽生えてしまった。順番が逆なのだ。彼女からすれば様子見の段階であり、今後の付き合い方ひとつで私たちの関係は大きく変わっていく。


 彼女に媚びてはいけない。媚びるのは友人に対する接し方ではないし、彼女の本意でもないはずだ。


 「私としてはさ、なんでも良いんだよ」鈴木赤が話し出す。「人の心を読むことができるのは生まれつきの病気みたいなものなんだ。それが良い風に働くこともあるっていうだけで人と違う生き方を強いられているっていう点では持病と何ら変わらないんだ」

 どこから話して良いものか思案している内に、鈴木赤が少し間を開けて続ける。 「はっきりとした思考が長時間続かないと心の声は読めないんだ。だから今あゆが何かを考えているのはわかるんだけど、何を考えているかまでは読み取れない。それでもこれまでの経験上あゆの考えを予想することはできるし、その結論もあゆが出すより私の方が速く出すことができる」

 「何ならその結論を口にした後の私の反応まで予想まで立てられるってか」

 「そこまで行き着いたのはさすがにあゆが初めてだね。お察しの通りそこまでは経験上わかるからあゆの言う通りなんだけどね」

 「私は普通と違うからね」

 「何が普通で何が普通じゃないのかは、普通じゃない力を持つ私には正直わからないよ。全て予想することでしか返せないんだ。心を読めない人がどんな反応をするかは全て『きまぐれオレンジ☆ロード』から学んだ口だ」

 「あれもだいぶ特殊能力系だけどな」

 「あれは家族全員何かしら抱えている系だけど、私の場合は私個人だけの素質であって家族全員の課題じゃない」

 「なんかかっこいいな」

 「これはこれで意外と不便なんだ。嫌な部分まで見えてしまう」

 「家族の思考まで読めちゃうんだもんな」

 「今晩の献立は丸わかりだし、最近は録画しているドラマのネタバレまで食らう始末だ」

 「もっと深刻なやつが来ると思ってたよ」

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