第11話「クラス分け」
春休みが終わり、新学期を迎えた。新しいクラス分けが発表され、私と鈴木赤は同じクラスに組み込まれることになった。最終学年は仲の良い生徒同士をくっつけるような配慮がなされるという噂を耳にしたことはあるが、まさかそんなことが本当に実現するとは思いもしなかった。
「同じ文系で本当に良かったよ」昼休みになり、鈴木赤がほっとした顔で言う。
「なんだかんだ私も嬉しいよ」
「随分上から目線じゃんかよ。なんか複雑だ」
「ところで進路は決まったのかよ」春休みとその前の話を合わせると、どうやら鈴木赤はいつか会社を興したいらしく、その業務内容もお笑いがメインの芸能事務所ということらしい。作家という立場から芸能事務所の社長というポジションまで上り詰め、自らの書いたネタをお気に入りの芸人にやらせるのが最終的な目標だという。
なぜか社訓だけは春休みに入る前に見せてもらったものの、肝心のネタは未だに見せてもらったことがない。本人曰く何を書いてもアンパンマンのストーリーを辿ることになるとのことだ。それはそれとして非常に優れた才能ではある一方で、鈴木赤自身はそれを強力な武器だとは微塵も思っていない。そしてその殻を突き破った先にあるネタを私と一緒に人前で披露したいのだという。
私は私として人前で何か芸を披露するような真似はしたくはないが、鈴木赤の作家としての能力は現時点で他に類を見ないものであるのでせっかくなら何かに活かしたいと考えている。それこそ少年向けのファンタジーでも作ってみれば意外とヒットするのではないかと思う。しかし残念なことに私には鈴木赤の才能を活かせるだけの能力がない。強いて言うならば彼女のマネージャーが関の山だが、そもそもそんな願いは彼女側からお断りされてしまうだろう。
「つまり私と一山築きたいっていうことだろう」鈴木赤が何食わぬ顔で言う。
「その読心の特殊能力もすげぇし、何なら今の今までそんな設定のことは忘れていたよ」鈴木赤は時と場合にはよるものの人の心を読むことができる。
「もちろん短文は解読できない。だけどある程度の長回しになると完全には読み取れなくても意味だけは何となく伝わってくるんだ」
「あれも嫌だこれも嫌だっていう条件は付き纏うけど、赤ちゃんとは何かしてみたいよ。下心が込み込みだけどね」
「そんなのは下心なんかじゃないよ。人の力を借りたくなる瞬間は誰にだってある。もちろん私だって打算ありきで動くこともある。だからこそあゆが私の力を使ってみたくなるという気持ちは誰にも否定できない」
「ごめんね。まるで友達に接する態度じゃなかったみたいだよ」
「それはそれ、これはこれだよ。友達であることと、その力を使うことは別の次元の話だよ。だから気にしないで」鈴木赤は何でもないように言った。
普段は後先考えない言動が目立つのに、こういう時の彼女はふた回りくらい大人びて見える。
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