第6話「断じて断る」

「今やっていることが今後誰かに評価されるわけでもないのによくやるよな」関心交じりに口にする。

「それを言ったら私たちだって同じだよ。誰に褒められるでもなく毎日学校に行って、毎日新しい知識を頭に詰め込んでる。人によってはプロになるつもりもないのに部活動に励む。選手規模の大きいサッカー部や野球部だってたいていはプロになれずに一生を終えるんだ。大人になってから社会人サークルに入るなりなんなりして一応の形で続ける人もいるだろうけど、大体は高校卒業と共に部活でやっていたことからも卒業するんだ」

「そこでの経験が活きてくることもあるだろうけど、まぁ大半は活用できずじまいだよな。人間関係なんて社会に出てからは嫌でも学べるだろうし、今培った体力は10年後20年後には衰えて微塵もなくなっているんだ」

「まだ若い私たちがそうやって先のことを決めつけるのも大人からしたら滑稽なことなんだろうけどな」鈴木赤が冷静な意見を出す。

「お互いに心のどこかで見下しながらじゃないと生きていけない世の中なんだ」

「純粋な心で生きていられるのは今だけだとつくづく思うよ。ここを出たら人間関係はもっと複雑になるよ、きっと」

「だからこそ私は」ちょっと間を置いて口にする。「今をしっかり楽しもうと思う」

「それが部活に行かないための口実ってことか。やけに長い前振りだったな」鈴木赤が茶化すように言う。

「こじつけでもなんでもなく、私はいつだって真剣だ。将来のことなんて大して考えていない」これが嘘偽りのない本心だ。私の高校生活、いや、これまでの人生は全てこの一心で構成されている。先のことを考える気になんてなれない。しかしそれもまた真剣な思いなのであるという思いを込めて続ける。

「今を楽しめないやつがこの先楽しむことなんてできやしない。不安はいつだって付き纏うもので、その不安とどうやって付き合うかが人生の醍醐味のひとつなんだ」

「ダウト。将来のことなんて“大して”考えていないじゃなくて、“全く”考えていないの間違いだろう」鈴木赤はやはり冷静で、大人びた意見で私の真剣な思いを一刀両断する。人それぞれなので、ばっさり切られようが見下されようが、そんなのは知ったことではない。私は私の道を行く。

「だって考えようがないからな。とりあえず迷ったら学業の成績だけはキープしておくに限る。指定校の枠がもらえるかもしれないし、今の成績を維持するために費やした努力がいつか唐突に芽を出すかもしれない」

「つまりここに受かった時みたいに長期的な記憶が覚醒するかもしれないってことか」

「さすが赤ちゃん、察しが早い。その通り、できる限りのことをやっていればいつか物事が好転するかもしれない。それに賭けているつもりはないけれど何もしないよりはずっとマシだ。そしてそんな私には部活動に顔を出しているだけの余裕すらないのだ」

「開き直るなよ」

「現状に行き詰ったふりをして何もしていない奴らよりはよっぽどまともだよ。高校生が真剣に打ち込むことなんて勉強か部活しかないんだ。その両者を放棄しているのは大馬鹿者だ。余裕をぶっこいて青春を謳歌している場合じゃない。むしろ青春は勉強と部活の二者で成り立っていると言っても過言ではない。それ以外の時間はなんだかんだで無意味なものだ。同じ次元でつるんでいる連中のお先も知れる」

「あゆ、急にどうした。青春に乗り切れなくてこじらせてるみたいになっているぞ」鈴木赤が水を差す。

「こじらせるのもまた一興ってもんだ」今度こそ開き直る。

「あゆにとっては部活ってことにはならないかもしれないけど、どうだ」鈴木赤の様子がおかしい。

「どうした、突然改まって」思わず尋ねてしまう。

「私とコンビを組まないか」

「学校の窓ガラスを走り回ったり、普段入れない屋上にこっそり侵入したり、授業中のミニテストの問題を予め職員室で調達するってやつか」今度は私が茶々を入れる。

「どれも違う。私と漫才コンビを組まないかって話だよ。賞レースを総なめにしてやろうぜ」

「断じて断る」








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