猫とデウスエクスマキナ


 私とネコは魔王ネケの城へと向かっていた。

 いやもうすぐ着く。

「いやにゃー!」


 抗議の叫びも届かない。ネコは魔王城へと突撃する。

 窓ガラスが割られる。うわ、高そうなステンドグラスが。

 ごろごろと転がり広間に出る。


 いや、そこは王の間と言った方が正しいか。より正しくは魔王の間。

 広い赤絨毯がひかれた広間に玉座がある。そこに腰かけるネコを大人にしたかのような女性。

 黒い髪に金色に眼、縦長の線が入っている。


「む、ネコか、帰って来たなら許してやっても――」


 ん? 魔王様、今なんて――


「倒しに来たよ、お母さん、もう人間と戦うのは止めて」


 いやいやちょっと待て。和解出来るならしようよ和解。楽しいよ和解。


「なにを馬鹿な事を、魔族と人間は分かり合えないのだ。お前、自分が受けた仕打ちも忘れたのか?」


 ……正論だ。鎖に繋がれたネコを思い出す。


「それでも! 私は人間を信じたい!」


 いやなんで? わからん、ネコの原動力はなんだ?


「……馬鹿娘め、ならばここで消し去ってやる」


 お母さまも何故そうなる!? 私は狼狽える。


「〈ブレイズ〉!」

「〈ブレイズ〉!」


 二人の魔法がぶつかり合う。相殺される。


「むう、やはり実力は同じ……このままでは決着が付かぬな我が娘よ。だから今なら許して――」

「今の私にはユーシャがいる!」


 私を抱き上げるネコ、胴体がびろーんと伸びる。


「……にゃあ」

「勇者……だと!? ついに召喚されたか……だが、なんだ? なんと、愛らしい……」


 あれ? 反応があのケモナー王様と一緒だぞ?


「さあユーシャ! 魔王を爪でやっつけて!」


 ……うーむ。どうしたものか。

 仕方なく前へと出る私。


「ふむ、かかって来るか、かわいい。じゃない勇ましい事だ〈ブレイズ〉!」


 魔法が飛んで来る、爪で切り裂く、炎は掻き消えた。


「なっ!?」

「にゃあー、あのう……」

「なんとかわいい鳴き声……じゃない、お前喋れたのか」

「……和解しませんか?」


 究極の宣告、そのつもりだった。


「む、それは、誰とだ? 人間とか?」

「いえ、ネコと」

「ふむ、それはやぶさかではない」

「にゃあー! でしょー!」

「お母さん!?」


 魔王は顎をさする。


「だが我が馬鹿娘は人間との和解をご所望なのだ。そこはどうする勇者よ」

「……んみゃあ、それは、私がなんとかします。人間と魔族の間に、この勇者が立ちます」

「ふむ、なるほど? お前が中立地点になると?」

「話が早くて助かるにゃ」

「そんな、それじゃユーシャが一人になっちゃう!」


 うーむ、確かにそうだが。他に道も無いように思えた。私が境界線となり魔族と人間のテリトリーを管理する。それだけの力が私にはある。……と思う。私の爪の威力を見たら人間も魔物も逃げていくだろう。


「みゃあ、魔王様には領土の再管理とこれ以上拡大しないよう注意を願いたい。んにゃ勿論、人間側にも要求するにゃ」

「ふむ、それは構わない……が、人間側は納得しないだろうな。なにせ奴らは魔族の土地をも己の物だと主張しているのだから」

「そこは実力行使にゃん」

「ふむ……それでは魔族がお前になり代わるだけではないか?」

「それでネコと魔王様が和解出来るなら、あ、あと魔王様には私への食料の供給もお願いしたいのにゃ」

「嫌だよユーシャ! そんなの私望んでない!」

「にゃあ……私もネコがお母さんと喧嘩したままんて望んでないのにゃあ」

「ユーシャ……」


 ここは残酷な選択を取るべきだ。私を見捨てるという。でもそれは間違っていないはず。私は生前、いや転生前の事を思い出す。家族とあまり仲良く出来なかった思い出、唯一家族全員と仲良かったのは猫。私はお前になりたかった。


「あたし……あたし……」

「ネコ、お母さんと仲良くね?」


 私はその場を飛び出した。ネコが追いかけてくる足音が聞こえる。その後、背後で扉が閉まる音が聞こえた。きっと魔王が魔法で閉めたのだ。

 私は振り向かずに行く。魔族と人間の境界線へ。

 ふと、私はいつまで生きられるだろうかと考える。


 その間しか、魔族と人間との間の平和を守れないのかと思うと歯がゆい。

 いっそ、あの邪神、じゃなかった女神みたいなヤツが表れて不老不死にでもしてくれないだろうか。


「呼びました?」


 現れた白装束の女。思わずひっくり返る私。


「にゃ、にゃんで!?」

「いやー、まさか私の正体をこうも簡単に見破られるとは思いませんでしたよ」

「え、じゃあつまり……」

「はい♪ 世界を混沌に突き落とすトリックスターな邪神とは私の事です。貴方にはその火種になって欲しかった」

「性格わりぃにゃ!?」

「だけど、それは失敗した。偶然にも魔王へのショートカット方法を得たあなたは、私の呪具も外して人間との魔族との和解を成立させた」

「……まだ人間側を説得出来てにゃい」

「私、実は未来視が出来るんです♪ 普段はつまらないから使ってないけど」

「……人間側も矛を収めるのにゃ?」

「ええ、貴方の可愛さに免じて」

「んにゃ馬鹿にゃ」

「それが私の未来視は厄介な事に、一度見た未来は確定させてしまうのですよ」

「にゃあ! じゃあ……」

「ええ、貴方の夢は叶います。貴方を犠牲にして」


 私は喜んだ。素直に嬉しかった。転生したばかりで碌な事がなかった世界だけれど。そこに平和が訪れる事が嬉しかった。


「私はその決断を『面白い』としました。もう私はこの世界を去って新世界にて新たな混沌を探そうと思いますが、その前に貴方が欲するモノをあげましょう」

「にゃあ、じゃあ不老不死を……!」

「ええ、いいでしょう、未来永劫の孤独の中で平和の礎となって下さい」

「……嫌な言い方にゃ、流石邪神」

「褒めても何も出ませんよ♪」


 というわけで。私は異世界にて平和の象徴となった。

 あるいは恐怖の権化とも。

 その爪によってもたらされる災禍は魔族よりひどいと人間には評判で。魔族からは感謝の言葉を受けた。別に嬉しくはなかったが。

 たまにネコが遊びに来る。すると私の心は落ち着く。

 永遠にこの時が続けばいいのにと思っている。

 いつか私は狂うだろう。その日までの平和だ。

 そんな事、邪神も分かっていたはずだ。だからこの世界を見捨てた。

 いや、もしかしたら私は狂わずにいられるのかもしれない。

 未来永劫、平和は続くのかもしれない。

 ――それなら、良かった。

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吾輩は猫勇者である 亜未田 久志 @abky-6102

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