猫失格
私は人間だった。
だけど、死んだ。
車に撥ねられ死んだ。原因は猫を助けようとした事。
真っ黒な猫だった。金色の瞳が良く輝いていた。
そう今のネコのように――
「――にゃ!?」
そこで目が覚めた。
暗い森の中で眠ってしまっていたらしい。
隣には黒髪金眼のネコもいる。
元奴隷である彼女はお腹を空かせていたし、眠りも満足にとらせてもらっていなかった。
だから、こうして寝ている。
ちなみに、どうでもいい話だが。私ことユーシャは三毛猫である。
何故にこんな西洋風の場所でバリバリの日本種なのだ。
どーせならアメリカン・ショートヘアとかにしろー!
と私が心の中で間違った西洋感を求めていると。
「ううん? 起きちゃったのユーシャ……」
寝ぼけまなこを擦ってネコが起きてくる。
「にゃ……ごめん」
「いいよ、どうかしたの?」
「嫌にゃ、夢を見て」
「そっか」
そう言って私を抱き寄せるネコ。
「これなら怖くないね」
「にゃ……」
しかし、私達はいつまでも森なんかにいるわけにはいかない。
早く安住の地を求めて旅立たねば。
その旨をネコに伝える。
「え……? もう行くの?」
「うん、その方が良いと思うにゃ」
ネコが不安そうに暗い森の中を見渡す。
「暗いよ……?」
「平気にゃ」
そう言って爪をキラリと月光に照らす私。
「そっか、猫は強いもんね」
「そうにゃ、さあ行くにゃ」
二人して森の中を進む。にしても暗い。月光があるんだからもっと明るくてもいいのに……?
ふと見上げると、私達二人(正確には一人と一匹)の上に暗い影が乗っていた。
「にゃに!?」
それは巨大な
「ギエー!」
と叫び声を上げる蝙蝠、こちらに襲い掛かって来る!
「にゃあ!」
爪で一裂き、この程度の敵では遅れはとるまい。
しかし、敵は空中、切り裂きが甘かった。いや躱された。
蝙蝠は無事だ。敵の攻撃が来る。
超音波が叩きつけられた。衝撃波となったそれは私を地面に叩きつけた。
「にゃう……!?」
「ユーシャ!?」
叫ぶネコ、こちらへ駆け寄って来る。
来ちゃダメだ。君までやられる……!
だが声が出ない、叩きつけられ肺の空気が一気に抜けたせいだ。
「ユーシャに手を出したらダメ! 〈ブレイズ〉!」
ネコが何かを唱えた。
炎が暗い森を照らす。真っ赤な炎。それは魔法だった。
「ガアアア!」
焼き尽くされる蝙蝠。堕ちて灰になる。
「か、かはっ」
「大丈夫!? ユーシャ!」
ようやく空気を吸い込む事が出来た私は声を絞り出す。うう焦げ臭い。
「ネコ、今のは?」
「今の? ああ〈ブレイズ〉の事? あれは魔法、私が使える特別な力」
「特別にゃ?」
「そう、だから私は鎖で繋がれた 封魔の鎖でね」
「封魔……?」
私は思わず首を傾げる。
「そう、私は魔王ネケの娘、ネコ。人間の敵」
ど、奴隷じゃなかったのか!?
というかじゃあなんでモンスターに襲われたりなんか。
いやいや、そもそも満足に食事や睡眠も与えられなかったのは――
「人間は私を殺せなかった。だから封じる事にした。でもあたしは初めから人間と敵対する気なんてなかった。あたしはお母さまを裏切って来たんだから」
「裏切ったにゃ……?」
「そう、だから、私はどっちつかずになってしまった」
「にゃあ、ネコ……」
「ごめんねユーシャ、巻き込んじゃって」
「んなー! ネコが誰だろうと関係ない! 一緒に行こう! ネコ!」
ぽろぽろと泣き出すネコ。
「本当に……いいの?」
「いいって言ってるにゃん!」
ネコの纏うボロ布の裾に噛みついて、前へ進ませようとする。
「ユーシャ、ありがとう……!」
私を抱きかかえるネコ。
「……行こうか、森を出よう」
「どうやって? この森は広いにゃ」
「飛んで行く〈フライング〉」
またしても呪文を唱えるネコ、その身体がふわりと浮き上がり、私ごと空中へと躍り出る。
「にゃあ……! すごい!」
「ふふふ、ありがとう」
ネコと共に空を駆ける、夜風が心地いい。
「んにゃー、どっちに行くの?」
「魔王の城」
……なんだって?
「にゃあ、今なんて……」
改めて確認を取る私。
「お母さまを倒しに行く、あんな危険な魔物を解き放っているなんて許せないもん!」
「にゃあ!? や、やめるにゃ! お、親子喧嘩とか良くないと思うにゃー!」
私は必死に抵抗する。しかし。
「魔王に私の魔法は通用しなかった。でもユーシャの爪ならもしかしたら!」
私を巻き込む前提だよこの子! 物騒だよ! 魔王の娘だよ!
「にゃあー! い、いやにゃー!」
「暴れないで! 落ちちゃう!」
「んなぁ……」
どうしてこうなった。
こうして魔王の城に突撃コースに乗ってしまった私。
勇者なんて辞めたかったのにー!
「にゃー!!」
私の虚しい叫びが夜空に木霊した。
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