第259話 魅惑の太もも

 寒さも厳しくなってきた十二月後半。

 春近達は学園生活最後の登校日となる、二学期終業式を迎えた。

 これで、この学園ともお別れかと思うと、寂しさと切なさと懐かしさでいっぱいになる。


 普段はヘタれで女性にわよわよっぽい春近だが、一つだけ成し遂げたことがあった。

 不幸な子供時代を送り、他の人が普通に経験するようなことを知らなかったルリたちが、青春っぽい学園生活を送る経験ができたのだ。

 クラスメイトと気さくに話をしたり、文化祭で一緒に演劇をやったり執事喫茶をやったり。

 ときおり淋しそうな顔をするルリが、日に日に笑顔になって行き、今ではいつも楽しそうにしている。


 入学当初は恐怖の女王として誰も話し掛けて来なかった渚も、今では女子たちが憧れ親衛隊まで存在する。

 男子の中にも隠れファンがいて、実はM系男子の憧れのアイドル的存在だった。

 入学時や転入時にイジメを受けていた忍や一二三も、今ではクラスの中で浮くこともなく楽しくやっていた。

 人と関わらないで生きてきたアリスも、今ではクラスの人気者だ。


 皆、春近と関わることで少しずつ変わっていったのだ。

 春近は、自分が理想として思い描くような、最強で最高で無双するヒーローにはなれなかったのかもしれないが、その不器用な優しさで彼女たちヒロインを救うヒーローにはなれたのだから。




 校舎を見つめていた春近が、藤原の方を向く。


「じゃあな、藤原……元気でな……」

「土御門、ほんとに行くのか?」


 春近が藤原に別れの言葉をかける。

 後は部屋を片付け荷物を纏め、今年中に移住する予定なのだ。


「ああ……藤原、ありがとな。正直なところ、お前のことは最初は陽キャの遊び人で、オレとは縁のない人だと思ってたんだよ。でも、本当は誰に対してでも同じように接してくれて、クラスのムードを良くしようとしている良いやつだったんだよな。特に、ルリたちが特殊な力を持つ存在だと気付いていたのに、偏見を持たず普通に接してくれたのには感謝してるよ。おまえが率先して空気を変えてくれたから」


「俺は何もしてないよ。全部、土御門がやったんじゃないか。知ってるぜ、他のクラスのイジメを止めようとしてたり、上手く溶け込めるように色々やってたのを。おまえの、そういうとこを見てきたから、俺も少しだけでも協力しようって思ったんだぜ」


「藤原……」


 陰キャと陽キャという正反対のキャラに見えて、意外と二人の間に不思議な友情が芽生えていた。

 そこに菅原もやって来る。


「土御門クン、キミは色々と奇想天外なことばかりしていたが、歴史に名を遺すようなのはキミのような人かもしれないな」

「菅原はオレを買いかぶり過ぎだって。オレなんて普通のオタクで少しヘンタイな男だぞ」

「まあ、変態なのは認めるが……」

「認めるのかよっ!」


 春近がツッコミを入れる。


「だが、やはり自分の中の常識に縛られていているだけでなく、固定観念を打ち破らなければイノベーションは生まれないのか。一見すると意味の無いような行動も変態過ぎて理解できない行動も、実は深い意味があるのかもしれないな……」


「いや、無いから! オレの変態ネタだけは忘れてくれ!」


 変態に深い意味など無い。

 春近は力の限り叫んだ。


 そこにルリ様推し男子が近寄ってきて最後の希望を述べた。


「隕石落下から生還したから、ルリちゃんに踏んで欲しいんだな」

「いやいやいや、ダメだって! ルリはオレの彼女なの! 誰にも触らせないから!」

「そこを何とか。靴を履いたままでも良いんだな」


 ひょこっ!


「えっ、いいよー」


 話をしていると、噂のルリがヒョッコリと顔を出した。


「い、いいの!?」

「いいよー」


「ちょ待てやー!」


 春近が止めようとするが、ルリが足を上げ体勢に入り、ルリ様推し男子が期待に胸を膨らませる。


「えいっ!」

 ガスッ!

「ぐえぇっ!」


 ルリ様推し男子が前蹴りをくらってダウンする。


「えええええっ! ルリ、それは踏むじゃなく蹴りでは?」


 ルリが右足を少し上げたかと思った刹那、雷光のような前蹴りが男子の腹にめり込んだ。

 ほんの一瞬、ルリのスカートが閃く一瞬で、ルリ様推し男子は地面へと沈んだ。

 本人は手加減したつもりだろうが、体力とパワーがあるルリの蹴りなのでかなり効いたはずだ。


「お、おい、大丈夫か?」

「ふっ、ふふっ、ルリちゃんに踏んでもらえて幸せなんだな……ありがとう……がくっ」


 ルリ様推し男子は満足そうな顔をしている。


「おまえ……何か凄いな……」


 本人が幸せそうなので良しとした。



「ルリ、蹴っちゃダメでしょ!」

「えーっ、でも踏んで欲しいって」

「と、とにかく、咲みたいに男子を踏むのは、真似しちゃダメなんだよ」


 咲が聞いたら怒られそうな話だ。

 当の咲は、四人組女子と別れを惜しんでいるようだが。


「あと、足を上げたらスカートが捲れてパンツが見えちゃうでしょ」

「はーい」

「ルリの太ももやパンツを他の男には見せちゃダメなんだよ」

「ふふっ、もう、ハルったら、独占欲強いんだから。心配しなくても、私の足を見たり触ったりできるのはハルだけだよ」

「うっ、ううっ……」

「今夜は、いいーっぱい触らせてあげるからね♡」


 くうっ、ルリ――

 やっぱり凄い魅力だ……

 制服のミニスカートから伸びる長い脚が、常軌を逸したかのようなエロさで主張している。


 お餅のように滑らかできめ細やかで艶やかで伸びやかな肌をして、スタイルが良いのに出るとこはムチッと出ていて、肉感的で柔らかそうでありながらも張りがある瑞々しい太ももが、本能をダイレクトに刺激して腰の奥の方をウズウズと責め立てる。

 しっとりと吸い付くような肌をしていて、心地良くてずっと触れていたくなる天国のような感触。

 ルリの脚だけでも、語り尽くせぬ程の言葉が出て来て枚挙に暇がないぜ!


 くっ、あの脚で首4の字固めして欲しい……

 お、オレは何を言っているんだ……

 ルリの魅惑的な脚を見ていたら、オレまでおかしくなてきたみたいだ……


 春近の妄想が止まらない。

 蹴っただけとはいえ、他の男子に絡んだことで嫉妬もあるようだ。


「ハル?」

「あっ、ボーっとしてた……」

「エッチな顔して私の脚を見てたよ」

「うっ、事実なので否定できねえ……」

「ふふっ♡」



 四人組と抱き合っていた咲が戻ってきた。


「おーい、ハル、ルリ」


 皆で並んで校舎を見つめる。

 様々な出来事があり、その思い出の一つ一つが、まるで昨日のことのように浮かんでくる。

 彼女たちとの全ての思い出が大切な宝物だ。


 春近は、もう通うことも無い校舎に語り掛けるように心の中で思った。


 ありがとう……陰陽学園――

 オレとルリを彼女たちを出会わせてくれて……

 この二年弱の年月は、オレの人生の中で最も重要で最も意味のある時間だった。

 それまでの何も無い退屈な日常から、こんな濃密で全力で心躍る毎日になったのだから。

 この先、島に行っても何処に行っても、ここでの暮らしは絶対に忘れないよ。


 校舎に少しの感謝を述べて、そして背を向け歩き出す。

 留まるところを知らない時の流れに身を任せるように。


 ――――――――




「それで、じいちゃん、この前言った件だけど」

『おう、春近よ、それならちゃんと陳情しておいたぞ』


 春近は、自室で祖父の晴雪と電話をしていた。

 先日皆に話したことを現実にする為に。


 緑ヶ島は、一時期のインバウンド目当てでリゾート開発をして、ホテルなど建物が立ち並んでいるが、計画が途中で頓挫して放置状態になっていた。

 一部を春近たちの為に住居や分校に整備しているが、使っていない建物を放置するのは景観も悪い。

 そこで春近は、今回隕石落下から東京を救った功績で、自然を破壊しないようにしつつ放置されている建物を再利用して、島の環境整備や島の魅力をアップさせ、訪れた人が疲れた心を癒せる本当の楽園にしようと思っていた。


『まあ、首相も都知事も春近には感謝しておるし、多くの人命を救った功績もあるのじゃから、議員も国民も反対せんじゃろ』

「それなら良かった。というか、あの島って東京都なんだ……」


 春近は素朴な疑問を口にする。


『まあ、離島は財政的にも東京都に属しておる場合が多いがの。昨今の状況では離島の人口減少などで防衛的にも領域保全的にも水産資源的にも重要度が上がっとるんじゃ。これ以上無人島が増えると問題じゃからの。離島振興法的にも春近の話は政府にも受け入れやすい話なんじゃ』


「それは良かった」


 あの時のお婆さんが古い伝承を話してくれたように、本当に鬼神様が戻って来るのなら、あの人たちにも喜んで欲しいからな。


『それと、嬢ちゃんたちが希望していた、ちょっとお高めの焼肉も予約しておいたからの』

「焼肉か……ルリが喜びそうだな」


 ふと、気配を感じて振り向くと、春近の後ろにルリが立っていた。

 ルリ程の手練れとなれば、一瞬で後ろを取ることも可能なのだ。


「んんっ!」

『どうした? 春近よ?』

「んんんっ、い、いやいやいや、何でもない」


 既にムラムラと欲情しているように見えるルリが、脚を春近の首に巻き付けてきた。

 ミニスカートのままのルリの生足が、まるでヘビのようにギュッと絡みついて離さない。


「うわっ、もがっ……な、何でもないから」

『春近よ……やり過ぎは体に毒じゃぞ……』


 もう、バレバレになってしまい、晴雪は飽きれて電話を切った。



「ちょっと、ルリ! またイタズラして……前もじいちゃんと電話してる時にイタズラしたよね。あと、実家のお風呂でも……」

「えへへぇ♡ ハルを見てるとエッチな気分になっちゃうんだもん」

「もう……」


 ルリはニコニコしながらも、舌でくちびるを舐めたり腰をムズムズと動かしている。

 完全にノリノリになっている感じだ。


「ほら、さっき私の脚をジロジロ見てたでしょ。授与式の時も生足好きって言ってたし」

「し、しまった……完全に自爆だぁぁぁ! 今考えても全国放送で自分の性癖を宣言するとかアホ過ぎる」

「ほらほらぁ~♡ いーっぱい生足を味わいなぁ~なんて」


 昼間に春近が妄想していた、ルリの魅惑的な脚による首4の字固めが実現した。

 エッチな夢は叶った!


「キッツイの行くよぉ~♡」

「ひぃぃぃぃぃーっ!」


 本当にすべすべで、滑らかでムチムチで肉感的で瑞々しい脚が首に巻きつき、興奮しているのか少し蒸れて汗ばんだ内ももが顔に当たる。

 そのまま4の字に固められ、エチエチな太ももやふくらはぎやイケナイところが容赦なく顔や頭にスリスリと擦りつけられる。

 絞められて苦しいのに、天にも昇りそうな気持よさで爆発寸前だ。


「ふふふっ、どう? 気持ちいい?」

「しゅ、しゅごいぃぃぃぃぃーっ!」


 春近が謎の悲鳴を上げギブアップした。

 そして……この後、めっちゃ〇〇〇自主規制した――――

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