第257話 予想外の展開

 ネットの掲示板やSNSには毎日大量の書き込みがあり、様々な噂がまことしやかに語られ、驚くべきスピードで拡散して行く。

 時に炎上して、時にネタを作り出し、時に英雄も生まれる。


 クーデターの後辺りからは、魔法少女や鬼を召喚する陰陽師などの噂が飛び交っていた。小惑星落下の緊急事態において首相が特殊能力を持つ者の存在を公表し、実際に巨大隕石を撃ち落とし東京圏を救ったことで、その噂は確信へと変わりネットの話題を独占するようになる。


 そして……

 そこに新たなネタか投下された。

 東京を救った救国の英雄が島流しにされるという話である――――




 菅山首相が首相官邸で記者会見を始めると、真っ先に島流しの質問が飛んだ。


「総理、隕石落下を防いだ決死隊の少年少女が、離島に流罪にされるとの噂が出ていますが?」

「いえ、決してそのような事はございません」

「現にネットでは、該当の生徒が離島に転校になるという話も出ているのですよ!」

「その話は、現在精査中でありまして……」


 記者の質問に、首相は返答に窮して汗をぬぐう。


「東京を救った英雄に対して、恩に報いるのではなく仇で返すおつもりですか! このままでは国民は黙っていませんよ!」


「そのような事はございません。決死隊を引き受けて下さった方々には十分な報奨金を用意しておりますし、栄誉賞の授与も検討しているのですが、ご本人が静かにしておいて欲しいとのことでして……」


 首相としては、やる事なす事裏目に出て批判ばかりだ。

 楽園計画は主に陰陽庁が進めていた計画であり、政府は後から了承し緑ヶ島開発の大きな予算も回している。


 当初の計画では島流しのような側面が大きかったが、現陰陽庁長官である晴雪の頑張りや、春近の鬼神王騒ぎにより計画は大きく改善された。今では南国リゾートのような話になっているのだ。

 隕石落下に際し、これまで冷遇されてきた鬼の少女たちに報いようと存在を公表した首相なのだが、それが裏目に出てしまい批判ばかりが殺到する結果になってしまった。


「会見は以上になります」


 首相が会見を打ち切って退席すると、記者たちが一斉に声を上げた。


「総理! まだ質問は終わっていませんよ!」

「ソーリ! ソーリ! ソーリ!」


 ――――――――




「困るじゃないか!」


 首相の第一声がそれだった。

 官邸に土御門晴雪長官を呼び出して、今後の対策を検討しているのだ。


「私はね、あの救国の英雄の献身に報いようと、栄誉賞の授与式を大々的に行って十分な報奨金も与えて、それで少しは明るい話題で景況感アップに繋げようとしたのに。それが、栄誉賞は辞退されるし式典も中止だし本人は無欲と来たものだ。しかも、変な噂が広がっているし。まるで逆効果じゃないか! 選挙も近いというのに」


 首相の怒りに晴雪もたじたじだ。


「それが……孫は……春近は、あまり人前に出たがらない性格で自己顕示欲も少ないようなのじゃ……。こればかりは」

「と、とにかく、無理やり島に送るようなイメージを払拭させるように」

「承知致しました」


 楽園計画が、更に検討されることになった――――


 ――――――――






「ファアアアアアアアァァァァァーッ!!!! なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」

 春近がネットの書き込みを見て絶叫する。


「島流しって、江戸時代かよ!」

「ハルチカはエッチ過ぎて島流しの刑です」


 アリスが春近の膝の上に乗って一緒にネットニュースをを見ている。

 先日のエチエチ攻め以来、アリスが事ある毎に春近にベタベタしたがるのだ。

 今日も、その小さな体を活かして膝の上に乗って甘えていた。


 そして、自分の事は棚に上げて春近をエッチ呼ばわりだ。


「オレがエッチ罪だと、アリスも同罪ということに……」

「わ、わたしは違うです……」


 こちょこちょこちょ――――

 イタズラでアリスの腋をくすぐる。


「うわっ、やめるです! きゃっ、だめっ、うううっわぁぁぁぁーっ!」


 春近の膝の上で完全に捕まえられ逃げ場が無いアリスに、容赦のないくすぐり攻撃を加える。

 敏感なアリスは、手足をじたばたしながら喘いでしまう。


「最近、不良になっちゃったアリスにはお仕置きだよね」

「やめるです! だめっ、ああっん♡」


 実際のところ、アリスは元からエッチなのだ。ずっと隠していたのを最近はボロが出てしまい、春近はアリスがエッチな不良になっちゃったと思っているだけなのだが。


「いいな、いいな、私も、それやってほしいな」


 忍が横でアリスを羨ましがっている。

 自分も春近の膝の上に乗りたがっているのだ。

 イチャイチャカップルみたいに、彼氏の膝の上に乗ってくすぐり合いをしてみたい。

 でも、大きな自分が乗ったら、重いと思われたらどうしようと迷っていた。


「あ、あの、忍さん……近いです」


 忍は、春近への想いが強すぎてジリジリと迫って行き、吐息がかかりそうな至近距離で春近を見つめている。



「春近には島流しなんて生ぬるい、市中引き回しの上、磔獄門でオッケー!」


 反対側から黒百合が春近にちょっかいをかけている。

 先日、エチエチ攻めで散々恥ずかしい目に遭わされて失神させられたのを根に持っているようだ。


黒百合ブラックリリー、そんなこと言ってると、またエチエチ攻めで恥ずかしい目に遭わせちゃうよ。ねっ、黒百合くろゆりちゃん!」


 かあああーっ♡

「だ、ダメっ、名前呼ぶの反則……」


 本名で呼ばれると、途端によわよわ黒百合になってしまう。

 前は、ずっと強気で春近にイタズラしていたのに、エッチしてからというものずっとこんな調子だ。

 名前で呼ばれる度にベッドの上での行為を思い出してしまい、恥ずかしさでモジモジしてしまう。



 世間は島流し騒動で炎上しているのに、当の本人たちはマイペースだった。

 そして、そこに晴雪から電話が掛かってきたのだが――――




「どうしよう……栄誉賞授与式に出てくれって」


 晴雪からの話では、移住の話は更にゆるゆるになっていた。本土との移動も完全に自由になり、フェリーや飛行機の無料パスも渡してくれるとのことだ。

 そして、炎上が収まらないから形だけでも授与式に出て欲しいと要請される。


「マズいな……顔バレするのは嫌だし。有名になると、オレの変態エピソードまでネットに出回りそうだし」


 春近の脳裏に様々な恥ずかしい記憶が浮かぶ。


「ちょっと思い浮かんだだけでも、踏まれるのが好きとか、足を舐めされられたとか、お尻でプレスされたとか、公衆の面前でエチエチとか、布団で初体験とか、地獄の獄卒拷問プレイとか、13Pで昇天しまくりとか、女性用パンツ愛用者とか、どれもこれもヤバいネタばかりだぁぁぁぁぁーっ! 完全に変態だぁぁぁぁぁーっ!」


「だったら変装して行けば良い。コスプレすれは、日常の自分とは違った存在に」


「そ、それだ!」


 黒百合の呟きに、春近が閃いた!

 コスプレして仮面をかぶり、鬼神王仮面バージョンで行けば良いのだ。


「よし、そうしよう!」


 春近が立ち上がった時、腕に抱えているアリスが散々くすぐられたりナデナデされたりで、足がピーンとなってピクピクしていた。


 ――――――――




 そして授与式当日――――


 総理官邸に政府関係者とマスコミのカメラが並ぶ中、栄誉賞授与式が執り行われた。

 今か今かと国民の誰もが英雄の登場を待ち望む中、司会役が授与式の開催を告げる。


「只今から、栄誉賞表彰式を行います。菅山内閣総理大臣、マイクの前にお願いします」


 総理大臣がマイクの前に移動し、上品な漆塗りの賞状盆を持った白手袋の補佐役が横に立つ。

 賞状盆の上には栄誉賞の賞状が乗っている。


「鬼神王デモンベリアル殿」


 春近が呼ばれた。

 今回、身バレ防止で偽名での表彰だ。

 春近のゲームアカウントネームである狂乱蛇王ベリアルから一部拝借していた。


 春近が登場すると、会場からどよめきが起こる。

 その男は、悪魔の仮面を着け、漆黒のスーツに煌びやかな色とりどりのイミテーション宝石を体中に装着し、真っ赤なマントをなびかせていた。

 何の冗談なのか意味不明な恰好である。


「鬼神王デモンベリアル殿、貴方は隕石落下から多くの国民を守るという比類なき功績を――――」


 首相が賞状を読み上げる。

 賞状と盾と記念品が贈られ、春近に記者たちのインタビューが始まる。


「ふあーっはっはっはっは! 我こそは、おっぱいと生足とタイツ足を愛するオタクの王……じゃなかった、新世界の王! 鬼神王デモンベリアルであぁぁぁぁぁーる!」


 春近の第一声に記者たちが怯む。

 あまりにも意味不明な恰好からの意味不明な発言である為に、記者の誰もが『こいつ、大丈夫か?』みたいな顔になってしまう。


「あ、あの、鬼神王さん、栄誉賞を授与された今のお気持ちを一言お願いします」


「ふああーっはっはっはっはーっ! 我は世界中の妖魔を統べ、森羅万象に干渉し、この世の理を支配する最強の存在! 宇宙より飛来する星を穿つ者なり! 我に不可能など無い! この程度は造作もないことよ!」


 普段はコミュ障気味な春近だが、仮面で顔を隠していると別人になった気がして、何か二次元のキャラのような感じで気が大きくなるのだ。

 場を盛り上げようと中二病的なセリフを連呼しているのだが、完全にスベってしまい逆に場は凍り付いてしまう。

 記者たちは何を質問するのか忘れて茫然とし、首相はやっちまった感満載で頭を抱えてしまった。


 この日、景気浮揚と支持率回復を目論んだ首相の読みは大外れし、逆に支持率は下降してしまう大失態となり、歴史に名を刻む授賞式になってしまった。

 一部のネット民にはウケて祭りとなり、大部分の国民には変な人という印象だけを残し、島流しの炎上騒ぎも急速に鎮火してゆく。

 当初の目的である炎上騒ぎだけは消えた結果となった。


 ――――――――




「あああああああーっ! オレのバカバカ! あんなの恥ずかし過ぎる!」


 春近が頭を抱える。

 授賞式の自分を思い出すと、顔から火が出るほどの羞恥心で暴れたくなる。


「ハル、面白かったよ。ふっ、ふふっ」


 ルリには意外とウケて面白がっているが、終始顔はニヤついている。


「ぷっ、ぷぷっ、は、ハル、しでかし過ぎだろ……ふふっ、あの場でアレはないわ……ふふっ、だ、ダメ、あはははっ!」


 咲は我慢できずに大笑いしている。


「生足とタイツ足の好きな春近。あたしのタイツ足を舐めさせてあげるわよ」


 渚は黒タイツに包んだ完璧に美しい脚を伸ばす。舐めろと言わんばかりに。


「春近くん、お、お尻も好きですよね?」


 忍が、図らずもトドメを刺してしまった。

 いつも、お仕置の時に春近自身が超興奮するのを実感しているのだ。

 そんなつもりではないのに、春近のフェチ心にドッキドキに火をつけてしまう。


「ファアアアアアッ! そうだよ! お尻も大好きだよ! もう許してぇぇぇーっ!」


 春近の羞恥心が限界突破した。

 政権にダメージを与えてしまい首相には悪いのだが、景気後退や嫌なニュースが溢れるストレス社会の大衆には、少しの笑いを提供し社会がほんのちょっとだけ明るくなったようだ。

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