第182話 遥の夢

 本格的な夏が到来した朝の空気を吸い込みながら、春近は照り付ける太陽の輝きとは逆に、暗雲が垂れ込める様相を呈していた。


 覚悟を決めて全員と付き合うはずだったのだが、さすがに一日で二人と初エッチしてしまうのはどうなのだろうか。

 あいも一二三も笑顔で喜んでくれていたのが救いだが、こんなにエッチばかりしているのは周囲から批判されても仕方がない気もする。


「どうしよう……ルリや咲に『エッチ禁止』とか言っておきながら、すぐその後にエッチしちゃってるんだけど……こんなのバレたら大変なことに……」


 春近は、不安を抱えながら教室へと向かった――――




「おはよう」


 春近が教室に入ると、既にルリと咲が登校しており、咲は春近の席に座り、ルリは机の上に腰かけていた。

 ルリの短いスカートから白く美味しそうな太ももが露わになっていて、教室の男子たちがいつものようにそわそわしている。


「ハル、おはよー」

「おはよ、ハル」


 二人が笑顔で挨拶する。


「お、おはよう」


 挨拶を返す春近だが、明らかに緊張していた。


 平常心、平常心……

 バレてないはずだ……

 でも、黙っているのも心苦しいような……

 もう、正直に言ってしまった方が良いのか……?


「ほら、ハル、疲れてるだろ。座れよ」


 咲が席を譲ってくれる。

 席に座ると、目の前に制服のスカートに包まれたルリの尻と、そこから伸びる太ももが見えて朝から刺激が強すぎる。

 

「ハル、昨日は疲れただろ。肩揉んでやんよ」

「う、うん……」


 咲が肩を揉み始めた。

 

 昨日……?

 やっぱりバレてるのか?

 何だか、いつもより優しいのも気になる……


「ハルはエッチだから、ちゃんと休まないとダメだよ」

「ルリ……」


 ルリが太陽のような笑顔を向けてくる。


 やっぱり知っているのか?

 オレは、女子の情報ネットワークを甘くみていたのか?

 ダメだ……もう黙っているのは、二人を騙しているみたいで良心の呵責かしゃくに耐えられない。


「ごめんなさいっ!」


 春近は全部白状してしまった――――





「それで朝から様子が変だったのかよ。ハルってば、浮気したら速攻でバレるタイプだな」

「もう、ハルは本当にエッチなんだから。しょうがないなあ」


「そ、そうなんだよ。あはは……」


 あれ?

 何だか優しい反応だ……怒ってないのかな?



 実は、この二人の反応の裏にはアリスが関係していた。

 アリスは春近が大変なのを予測していて、朝から皆の所を回って『春近が疲れているから、強く迫ってばかりいないで少しは労わるように』と伝えていた。

 性の不一致が離婚の原因だと、ネットで拾った豆知識まで添えて。


 そんな訳で二人は、めっちゃエッチしたいのを我慢して春近を労わっていた。結婚もしていないのに離婚の危機は避けたいところだ。


 他にも色々とアリスが裏で調整してくれていているのを春近は知らない。

 春近はもっとアリスを敬わなければならず、もう足を向けて寝られないのだ。



「皆が怒ってなくて良かったよ……って、痛っ! 咲、ちょっと強いって!」

「ええ~っ、このくらいの方がコリが取れるだろ。アタシに任せろって」

「いや、力強過ぎだから。やっぱり怒ってる?」


 肩を揉んでいる咲の手に、勝手に力が入ってしまう。

 そう、咲は怒っていた。


 くっそ、ハルのヤツ――

 アタシとのエッチは断っておいて、他の子とはするのかよ!

 そりゃ、みんな平等にってのは分かるし、アリスの言うようにワガママばっか言ってたら嫌われそうなのも分かるけどさっ。

 アタシだって、もっと愛して欲しいのに――


 ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい――――


「いたたっ! だから痛いって!」



 机の上に座っているルリが向きを変え、艶めかしい脚を春近の首に絡めてきた。

 春近の角度からは、美味しそうな太ももやスカートの中身が丸見えになっている。


「ルリ、見えてるから! くっ、パンツはチラリズムが最高なはずなのに、モロ見えなのに破壊力抜群過ぎるっ!」


 ルリは無意識に足を絡めて、春近との今後を考えていた。


 はあ~っ、もっとハルと一緒にいたいな――

 もっとイチャイチャしたいし、すっと繋がっていたい。

 ハルを思う気持ちが次から次へと溢れてきて止まらないよ。

 島に行ったのなら、ずっと一緒に愛の暮らしができるのかな……

 ハルは、ずっと一緒だって言ってくれたから。

 それだけは信用できる。

 ハルは絶対に裏切らないから。


 ルリは色々と考えているのだが、お股が開きっぱなしで春近が必死に隠そうとスカートを押さえていた。


「ルリ、パンツ見えちゃうからっ!」


 昨日と同じように、その光景を眺めていたクラスの男子が限界突破し、文句をぶちまけながらトイレへと駆けて行った。


「くっそ、あんなのエロ過ぎるだろ!」

「ちっくしょおぉぉぉぅ! おっぱいぷるんぷるんで、尻がぷりんぷりんで、太ももがムッチムチじゃねーか!」

「土御門はあんなの毎日拝んでるのかよ。羨ましぃぃぃぃっ!」

「ボクも現実リアルな彼女が欲しくなったんだな!」



 ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい――――


「ちょっと咲っ、もう大丈夫だからっ! あっ、和沙ちゃん、助けて!」


 一心不乱に肩を揉む咲が止まる気配も無いので、春近は偶然通りかかった和沙に助けを求めた。


「ハルちゃん、楽しそうなことをしているな。そうだっ! 私もマッサージしてやろう。スペシャルな足つぼマッサージだぞっ!」


「は…………?」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり!


「ぐっはっあああっ! 超痛い!」


「はあっ、はあっ、ハルちゃんが、そんな気持ちよさそうな声を上げたら、何か私まで変な気分になってしまいそうだ」


 和沙は春近の上履きを脱がすと、足裏のツボををグリグリと刺激し始める。

 春近が声を上げると、更にテンションが上がってグリグリしまくった。


 ――――――――




「あれっ、何だか体が軽いぞ! 凄く調子が良くなった気がする。マッサージのおかげなのかな?」


 やってもらっている時は地獄のようなマッサージに思えたが、その後にどんどん調子が良くなり結果的にマッサージ効果は抜群だった。

 何だかんだあっても、気遣ってくれる優しい彼女ばかりで、もっと感謝しなければいけないと春近は思っていた。


「もっと、オレが皆の全てを受け止められる強い男になりたい……」


 彼女達が桁違いに強すぎて無理な話なのだが、春近はアニメで無双する主人公のように強い男に憧れてしまう。

 やはり、理想は強くてカッコいい全てのヒロインの想いを受け止められるような男なのだ。



「あれっ、春近君」

「あっ、遥さん」


 考え事をしながら歩いていると、いつの間にか遥が目の前に立っていた。


 飯綱遥――――

 個性的な女子が多い天狗の転生者の中で、見た目も性格も至って普通な印象だ。

 比較的最近になってから強い力に目覚めたということで、子供の頃は普通の学生として育ってきたのが影響しているのかもしれない。

 気さくな性格でクラスでも人気があるようだ。

 黙っていれば恐ろしい力を持つ大天狗の能力者だとは誰も思わないだろう。


「ちょっと、春近君っ! 私のことは名前呼び捨てだったでしょ! なんで『さん』付けになってるの?」

「あ、ごめん……遥」


 前に変なテンションになった春近がオレ様キャラで接したら超お気に入りになってしまい、それからは会うと強引に顎クイやキスを要求されるのだ。

 強引なプレイを強引に求められるのだから、多少矛盾しているところでもある。


「んんっ、あんっ……」


 今日も少女漫画のヒロインに成り切ったように夢見心地な表情でキスをしてから、遥は春近の耳元に顔を寄せて呟いた。


「一二三としたんでしょ」

「えっ……」

「この後、ちょっと付き合ってもらうから」


 普段は人懐っこい感じの遥の目が、少しだけ妖しく輝いた――――

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