第170話 無敵の天音

 窓の外で小鳥がさえずり室内には優しい光が差し込む朝、春近は心地良い落ち着いた声と満面の笑顔によって目を覚ました。

 まさに理想的な朝チュン展開である。


「ハル君、朝だよ」

「んんん~ん」


 目を開けたそこには、優しい笑顔の天音が待ち構えていた。

 昨日までの疲れた表情や目の下のクマも消え、お肌もつやつやで元気百倍だ。


「ほらほら、シャワー浴びようね」


 まだ寝ぼけ気味な春近を連れて、天音がシャワー室に入る。


「うう~何だか腰が重いような……?」


 春近が言う通り、昨日は極限まで天音に搾り取られ、まだ疲れが残っているようだ。


 げに恐ろしきは天音である。

 元来持っているサキュバスのような素質もる事ながら、努力家である天音はあらゆる性技を勉強し習得しているのだ。

 もうそれは誰も到達できない神の如き技法へと昇華しょうかさせるくらいに。


 ルリが生まれ持った妖艶な美貌と内から漏れ出る魅了の力でサキュバスのようになっているとしたら、天音は男をとりこにする性質と天才的なテクニックによってサキュバスのようになっていた。


「えへへ~ハル君のお世話が出来て嬉しいなっ」


 天音は春近をシャンプーしたりボディソープで洗ったりと、甲斐甲斐かいがいしく尽くしている。

 もう完全にエチエチ新妻気分なのだ。


「あの、後は一人で洗いますから」

「ダメっ! ハル君のお世話は私が全部するの」

「でも……」

「ふふっ、ココも洗っておかないとねっ」


 天音の手が、春近のアソコに伸びてくる。

 普通に洗っているだけでも、天音の細く長い指がまるで生き物のように絡みつき、絶妙なタッチでリズミカルに動き出すのだ。


「ちょっ、そこはいいから!」

「ダメだよ、ここもキレイキレイにしましょうね~」

「ぐあぁぁっ、自分で洗えるから」

「うふふっ♡ 何だか元気になってきたよ。私、またしたくなっちゃった」


 天音のエッチな声が耳元で囁き、もうそれだけでもたまらない気持ちになってしまう。


「今日はダメだよ。まだ昨日の疲れが……」

「え~っ、どうしよっかなぁ~♡ れろっ、ちゅぱっ」


 そうしている間にも、天音の舌が耳を舐めたり吸ったりして、両手は絶え間なくあちこちを撫で回している。


「うわっ……す、凄い……」


 昨日の行為で春近の弱点は全て把握済みである。

 天音は両足を絡めて春近の足を開き、無防備になった所に容赦のない弱点を狙ったエチエチ攻撃が炸裂する。


「うわあああっ、待って待って。もう大丈夫だから」

「だめぇ~っ、許さないよぉ♡ うふふっ」


 幸せそうな天音が春近に抱きつきニッコニコだ。


 ハル君……

 たまんないよ、その表情……

 そんな切なそうな表情するなんて反則だよ……

 もっとエッチなコトしたくなっちゃうよ……


 朝っぱらからイチャイチャしまくり、ギリギリの所で許してもらい開放される。


 春近は、昨日の疲れて限界になっているにも関わらず、あまりのテクニックで刺激されどうにもこうにもならない所まで焦らされてしまう。朝からおかしくなってしまうのではないかと心配するくらいに。




「ハル君、朝ごはんできてるよ」


 テーブルに御飯と味噌汁と目玉焼きなどの定番の朝食が並んでいる。

 天音が朝早く起きて準備していたようだ。


「天音さん、ありがとう。でも、朝早くから大変だったでしょ」

「ハル君の為なら何でもするよっ! ハル君は何にもしなくて良いんだよ。私が全部やるから」

「いや、それはちょっと……」


 天音さん……実際に付き合ってみるとやっぱり……

 こんなに全部やってもらっていたら、ダメ男になってしまいそうな気がする……

 これはオレがしっかりしないと。

 

 それにしても昨日は凄かった……

 口で……は初めてだったけど、あの深淵入滅アビスニルヴァーナだったかな?

 あれは本当に深淵しんえんに引きずり込まれるかと思った……

 あんなの知っちゃったら、本当に日常に戻れなくなりそうだ。

 オレが現実と二次元を行き来するオタクだったから良かったものの、普通の人だったら異世界に行ったきり戻って来れないぜ。

 しかも朝からあんなに焦らされて……

 天音さんと一緒に暮らしたら、命がいくつあっても足りない気がしてきた……


 それにしても、天音さんって意外に中二っぽい所が有るのかな?

 ネーミングセンスが最高だぜ!

 今度、好きなアニメを薦めてみようかな?


 そんなことを考えながら、春近は天音と朝食を共にする。



「ごちそうさま。天音さん、美味しかったよ」

「えへへ~ハル君に喜んでもらえるなんて嬉しいよ。またいつでも作るからね。そうだ、一緒に住んじゃうのはどう?」

「えっと……女子寮で同棲はさすがにマズいと思うけど……」


 春近が断わると、天音は心底残念そうな表情になるが、すぐに気を取り直して喋り出す。


「緑ヶ島に行けば一緒に暮らせるんだもんね。それまでは我慢するよ」


 天音さん、島に行っても部屋は別だよ……

 というか、天音さんと同棲したら、あんな凄いのを毎日やることに……現実世界に戻ってこれなくなりそうだぜ。




 多少足腰に疲れが残るまま、春近は天音と一緒に校舎へと向かった。

 昨日あれだけ激しく愛し合ったのだが、授業は待ってくれないのだ。


 春近と天音が同じシャンプーの香りを漂わせながら、仲良くB組の教室に入ったところで、すぐに渚が気付いて近寄って来た。


「天音……あんた、昨日の今日で……なんて手の早い女……」

「渚ちゃん、『兵は神速をたっとぶ』だよ!」


 天音が春近の好きそうな三国志ネタを織り交ぜてから、春近にウインクして見せるという完璧な所作だ。


 春近の趣味や好きなものはリサーチ済みで、ちゃっかりと勉強していて完璧に話を合わせられるのだ。

 まさに男を喜ばせるのに天賦の才を持つ女である。

 昨日の天音流絶技四十八手も、春近を好きになってから世界中の性技を勉強し、元から備わったテクニックと融合させ、神懸かり的な究極の性技へと昇華させたのだった。

 男を喜ばせる話術や仕草と究極の性技、もはや天音は向かう所敵なしかもしれない。



「ふふっ、渚ちゃん。昨日は私のテクでハル君がいっぱい喜んでくれたんだよ」


 天音が渚の耳元で、わざと挑発するように囁く。


「うっ、この女、何かムカつく……」

「もうっ、渚ちゃん怒らないでよ。私たち、もう姉妹みたいなもんでしょ」

「ちょっと、抱きつかないでよ」


 渚と天音が抱き合うようになっているのを見て、渚の親衛隊みたいな女子が集まって来る。


「渚女王様と天音お姉さまが抱き合っていらっしゃるわ!」

「ああっ、なんてお美しい!」

「まさに麗しき乙女の園ですわっ! 尊い!」


 親衛隊の面々は、憧れの渚女王と美しき天音嬢とのロマンス(?)を勝手に想像してドキドキワクワクだ。


「ちょっと離れなさいよ! 暑苦しい!」

「渚ちゃーん、仲良くしよっ! ちゅ~!」

「もう、止めなさいって! 春近、見てないで止めてよ!」


「うっわ、渚様と天音さんの百合展開……ドキドキします」


 春近は百合も行ける口である。

 美女二人がイチャイチャするのは尊いのである。


「あの二人、仲良しだね~」


 そこにあいがやって来た。


「あいちゃん」

「えへへ、仲良しなのが一番だよね」

「そうだね」


 あいちゃんの言う通り、何だか仲良くて微笑ましいな。

 前は少し仲悪そうな気もしたのに。

 九州の温泉旅館でキャットファイトしてたのが懐かしい。


「天音さんも元気になって良かった」


 天音は体調が悪いのは嘘だと言っていたが、春近からは本当に疲れて体調が悪そうに見えていたのだ。

 根が真面目なのか色々と思い詰めてしまう性格なのか、放っておいたら倒れてしまいそうに見えて本当に心配だった。

 渚と楽しそうにじゃれ合っている今の天音は、明らかに昨日までとは違って生き生きとしている。


「だめぇぇ!」

「渚ちゃーん! もっとイチャイチャしよっ」

「嫌よ! 離れなさいって。あっ、変なとこ触るなぁ!」


 天音が渚に抱きついたまま彼女の耳をはむはむしている。


「まだやってる……そろそろ助けないと後が怖そうだから、渚様を救出に行こうかな……」


 春近は、絡まり合う美女二人の間に入っていった――――

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