第169話 天音超絶四十八手

 春近は天音を抱えて歩く。校舎の廊下で座り込んでいる天音を見て心配になり、女子寮まで連れて行き休ませようとしているのだ。



 いつもはオシャレで身だしなみもキッチリしている天音が、前髪が乱れ顔に垂れ下がり気怠そうアンニュイな表情をしている様は、たまらない色気を出しまくっていて見る者全てが目で追ってしまう程だ。

 すれ違う男子生徒が皆、天音を見ては生唾を飲み込み何故か前屈みになってしまっている。



「天音さん、寮に着きましたよ」

「ハル君……まだ足がふらつくの……部屋まで連れてって欲しいな」

「分かりました、じゃあ行きますね」


 春近に抱えられた天音の顔に笑みが浮かぶ。


 ふふっ、ハル君ってホントお人好しだね――

 ハル君に構ってもらえなくて『はるっち欠乏症』なのはホントだけど、廊下で座り込んでいたのは作戦なのに。

 ハル君が歩いて来るのが見えたから、わざと座り込んで調子が悪そうなふりをしたんだよ。

 順番を待ってたらいつになるか分からないから、ちょっとズルしちゃった。

 皆が知ったら怒るかな……?



「天音さん、部屋に着きましたよ」

「ハル君、ありがとう……」


 春近は、天音をベッドに寝かせる。


「天音さん、早く元気になってね。廊下で倒れてる時は、凄く心配したんだから」

「ハル君……優しい……」

「当然ですよ。天音さんは大切な人なんだから」

「ううっ…………」

「本当に天音さんは心配なんだだよな。放っとくと悪い男に騙されそうだから、ずっとオレが守りますから」

「うっ、ううっ……」

「でも、もう安心して良いですよ。オレがついてますから」

「うううっ……ぐずっ……ううっ……ハル君……」


 嘘で騙して連れ込んだのに、ハル君が優しくて涙が出てきちゃう――

 何で! 何でなのよ!

 嘘をつくことに罪悪感なんて無いはずなのに、ハル君の前だと……この優しい人を裏切ってる気持ちになってしまいそう……

 もう、何なの! ホント調子狂っちゃう!



「天音さん、どうしたの?」


 突然泣き出した天音に、春近が戸惑ってしまう。

 泣き出した彼女を安心させる為に、強く抱きしめてギュッとした。


 ぎゅっ!


「大丈夫、天音さんが泣き止むまで一緒にいますよ」


「ううっ、だから何でそうなのよ! もう、ハル君ってばホントお人好しなんだから! 調子が悪いのも嘘なの! 簡単に騙されちゃってバカだよ! こんな嘘つきな私なんて嫌いになったでしょ!」


「えっと……天音さんは優しくて良い人ですよ……根が真面目だから嘘をつけないんだし……」


「そんなわけ無い! この涙だって嘘かもしれないんだよ! 何で全部信じちゃうのよ! バカみたい!」


「何度でも言います! 天音さんは、優しくて良い人です!(キッパリ)」


「うううっ、もうっ、ハル君のバカぁ」


 何で毎回こうなるんだろ……

 完璧な私でいたいのに……

 計算高くて腹黒な所も隠して、上手く立ち回りたいのに……

 ハル君の前だと、全て曝け出してしまう、カッコ悪いところばかり見せてしまう。

 去年、あの時に初めて私の本音をぶつけてしまった時からずっとだ。



 天音は起き上がり、春近へと覆い被さった。


「ハル君なら、本当の私を受け止めてくれるの……?」

「はい、天音さんのことは大切ですし大好きです。全て受け止めます」

「ふーん……なら、今ここで良いんだよね?」

「えっ、今はアレを持ってなくて……」

「私が用意してあるから心配しなくても大丈夫だよ」


 天音がカチューシャを外し髪を下して、妖艶な表情で春近の前に立ち塞がる。

 左目じりの泣きボクロが、不思議な色っぽさを醸し出し、春近は目を奪われて動けなくなった。


「ハル君ってホントにバカだね。純粋すぎて女の怖さを知らない。本当の私を見て後悔しても遅いんだよ」

「えっ、ええっ……」

「そうそう、ハル君って攻められるの好きだよね。見てれば分かるよ。ちょっとMっぽいもんね」

「あの……天音さん……?」

「お子ちゃまみたいな他の子のエッチじゃなく、本当の大人のエッチを見せてあげるよ(ニコッ!)」

「あ、あれ?」

「私が編み出した、天音流絶技四十八手をね!」



 春近は事ここに至って『何かヤッベェェェ!』と思った。

 天音からは、渚とは違った種類の迫力が出ている。

 一瞬、その必殺技みたいなネーミングに心躍ってしまったが、天音の迫力に圧されて何も言えなかった。


「ちゅ……あむっ、れろっ……」


 艶っぽい表情の天音がキスをする。


 最初は優しいキスかと思ったが、すぐに舌を絡めるようなねちっこく激しいキスへと変貌した。

 キスをしながらも、天音の手は春近の弱い部分を刺激し続け、蕩けるようなキスと指先の刺激とのコラボレーションで、春近はすぐに脱力してされるがままになってしまう。


 すっ、凄い天音さん!

 キスだけで凄く気持ちいい!

 体から力が抜けて行くようだ――


「大好きなハル君……戻るなら今の内だよ……本当の私を知ったら……もう、日常には戻れなくなるかもしれないよ……」

「どんな天音さんだって、どんと来いだよ! オレが天音さんを思う気持ちに変わりは無いぜ! 全て受け止めてやんよー!」

「ふふふっ、ハル君ってば本当におバカで可愛い……じゃあ、天音流絶技四十二! 深淵入滅アビスニルヴァーナ!」


 春近は、天音の本当の恐ろしさを知った――――

 究極の快楽により春近の精神は一気に地獄の最下層まで堕ちた後に天国まで突き上げられた。


 ※すみません。成人向けではないので詳しく描写できません。想像にお任せします。


 天音の舌が絡みつき、舐るように回転したり、チロチロと走り回ったり、舌全体で包むような動きをしたりと、超絶テクニックにより完全に翻弄されてしまう。

 初めてのその行為に、春近の体に電流が突き抜けるような快感が走り、本気で『オレ死んじゃうかも』と思わせたくらいだ。

 完全に搾り取られた春近がダウンし、赤い舌でくちびるを舐め取りながら天音が上から覗き込む。


「うふふっ、ハル君っ! 何寝てるのかなっ? まだ一つだけだよ。後、四十七手も残ってるよ。全部見せるから覚悟してねっ!」

「はあ? はあぁぁぁぁぁ?」


 天音が嬉しそうな笑顔で宣言する。

 自分のテクで気持ちよくなった春近にご満悦なのだ。


「ほらほら、私を全部受け止めてくれるんでしょ! 次はねっ、天音流絶技二十九! 混沌輪廻カオスサンサーラ!」

「ぐわっ! す……ご……い……」


 春近は混沌の奈落から異世界転生を何度も繰り返すような、輪廻りんね円環えんかんを体感した。

 もはや精神は時空を超え、日常には戻れない体験をしてしまったようだ。


「も……う……ダメ……だ……」


 天音流絶技四十八手の内の二つを体験しただけで、春近は限界になってしまった。


「えへへっ、ダメじゃないよ。まだまだ行くねっ! このまま三十、螺旋輪廻スパイラルサンサーラから、三十三、恒星解脱スターモクシャまで連続接続!」


 天音は腰を回転させて更に春近を追い詰めると、そこから流れるように体を組み替えて絶頂へと導いた。まるで踊るように、舞うように天音の体が美しくくねる。


 春近は、まるで大宇宙に漂う欠片のように翻弄され、何度も何度も為す術もなく搾り取られて、最後の絶技が決まった時には完全に失神していた。


 ――――――――




「はっ! 今、オレは転生して異世界で無敵のヒーローに……」

「ハル君、残念ながら、異世界には行ってないし、ハル君はハル君のままだよ」


 春近が目を覚ますと、ベッドに寝ていて隣に天音が添い寝してピロ―トークのようになっている。

 そして、腰が抜けてしまったのか疲れ切ってしまったのか、体に力が入らなくて動けない。


「天音さん……」


 天音は少し心配になった。

 春近と居ると感情が昂って、見せたくない部分まで見せてしまう、隠しておきたい感情まで曝け出してしまう、自分の嫌な部分まで晒してしまう。

 

 ハル君……

 ハル君はどう思ったんだろう・・・・・

 面倒くさい女だと思ったのかな……?

 ふしだらで淫乱な女だと思ったのかな……?

 こんなコト、他の男にもしてるのかよって思ったのかな……?

 さっきは、気持ちが昂ってしまって、お人好しでおバカなハル君に全てを見せてしまいたいって思ったのに、今はどう思われているのか知るのが怖い。


「天音さん、元気になったみたいで良かった。もう、心配させないでよ」

「えっ、ハル君……他に言うことはないの? 何も気にならないの?」


 天音は驚いた顔をする。


「そ、それは色々気になるけど……過去は変えられないんだし、オレは今の天音さんが好きだし、天音さんが心配過ぎて放っておけないんですよ。でも、もうちょっと抑えてくれないと、オレの体が持たないような……」


 その言葉を聞いて、天音は泣き顔を見せないように顔を春近の胸に埋めた。


「もうっ、ハル君のバカ! バカバカ! バカハル!」

「ええっ、何でバカバカ言われてるの?」

「バカなのは私……一人で悩んで一人で暴走して……」



 ハル君には、ずっと前から私の恥ずかしい所や性格の悪い所も見せちゃってるのに。

 ホント、バカだよね……



「でも、天音さんって意外と中二っぽいネーミングセンスですね」

「バカ!」

 ぽかっ!

「痛い」

「もうハル君から離れないから。裏切ったら死あるのみだよっ!」


 天音が和沙みたいなセリフを言い出し、春近が何か言おうとした口をキスで塞いだ。

 反論は全く受けつけないつもりだ――――

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