第156話 夏海の好感度バロメーター
世間はゴールデンウィークで海へ山へ観光地へと繰り出しているというのに、春近といえば部屋でゲームをしているのだった。
そう、連休だからといって人の多い場所に行くより、部屋でゲームやアニメを観ているの最高という陰キャ思考である。
「ふぅ、やっぱり部屋が一番だぜ!」
せっかくの連休を自堕落に過ごす春近に、後ろから
「はるっち~ せっかくの休みなのに、どっか行こうよ~」
あいが、後ろから抱きつき両手両足を絡めて、胸をぎゅうぎゅう押し付けてくる。
春近が飲み物を買いに出た時に、あいに見つかり部屋までついて来たのだ。
「ちょっと、ヤバいって。あいちゃんのマシュマロボディで変な気持ちになってきちゃうよ」
「変な気持ちにするためにやってるんだしー」
胸を背中に押し当てつつ、両手で胸板や脇腹をスリスリ刺激して、更に絡めた足でさり気なくイケナイところを刺激している。
こんなエッチなことをされて大人しくしている男は、世界中で春近くらいではないかと思える程だ。
「去年は旅行に行ったのに、今年はこんなだし。はるっちって、結婚したらゴロ寝ばかりのダメ男になりそう」
「そ、そ、そんなこと無いって! オレは家族サービス満点の男になる!」
「家族サービスの前に、うちにいっぱいサービスしてよぉ」
ちゅっ!
後ろから抱きついたまま、あいが春近の首筋にキスをする。
はむっ!
更に耳を甘噛みしたり舐めたりと、エチエチ攻撃をやりたい放題だ。
「くっ、そんなにされると……マズいって……」
「何がマズいのかなぁ~」
絡ませた足でイケナイところをぐいぐい刺激される。もう春近は大変なことになっていた。
ううっ、何て凄いテクニックなんだ――
オレの彼女は凄いテクニックの子が多いような気がする……
他所のカップルも皆こんな凄いのか? 知らないけど。
「ねえっ、うちがスッキリさせてあげよっか?」
「えっ、スッキリって……」
「渚っちにもヌ〇てもらったんでしょ?」
抜いたって……
あの時のことを言っているのか?
あれはオレの暴発なのに……
「だ、ダメだよ、そういうのは」
「相変わらずマジメだねぇ。でも、マジメなはるっちが、ガマンできなくなっちゃう顔にゾクゾクじちゃうし」
「うううっ」
「今日は、はるっちの好きなルーズも履いてきたし。これで踏みながら気持ちよくしてあげよっか?」
「い、いや、臭いのとか、好きじゃないから」
「ホントかなぁ~? はるっちが好きそうだから、わざと洗ってないのを履いてきたんだよぉ♡」
目の前に迫ったあいの足には、穴が開いてくたびれたルーズソックスが見える。
その何ともいえない小汚いのに心惹かれる靴下に、春近は思考の迷路に入っていた。
いや、まて!
臭いのなんか好きなわけないだろ。
しかし……前に踏まれた時に体の底から沸き上がるゾクゾクとした感覚と高鳴る鼓動があったのも事実。
くっ、何をオレは変態なことをしようとしているんだ!
こんな事ばかりしていては、後戻りできなくなって変態の烙印を押されてしまうぞ!
いや、既に変態の烙印を押されている気もするが……
うおおおおおっ、凄くやってみたいけど、やってはいけないような?
オレは一体どうすれば良いんだあぁぁぁ!
「あの、そんなに真剣に悩まなくても……なんかゴメン」
あいが絡めていた手足を離して春近を開放する。
今のあいは、春近への溢れ出る恋心とドロドロしたフェチ心で思考の迷路に入っていた。
はるっち……そんな切なそうな顔されると、もっと踏みたくなっちゃうよ。
でも、おあずけして、もっともっと切なそうな顔を見たい気持ちにもなっちゃうし。
どっちにしても美味しすぎるって……
そんなにうちを誘ってばかりで……罪なはるっちだね。
もうおかしくなっちゃいそうだよぉ♡
「はるっち、大好き♡」
「あいちゃん……」
コンコンコン!
「おにい、居る?」
「「わあああっ!」」
突然のノックに、二人でビックリして飛び跳ねる。
「夏海か?」
何でアイツは、いつも取り込んでる時に現れるんだ――
ガチャ!
「おにい、ゴールデンウィークは帰省しないのかってお母さんが……あっ!」
夏海がドアを開けて用件を伝えようとしたところで、部屋の中に女がいるのに気づき言葉に詰まる。
そんな夏海を、あいはハイテンションな笑顔で迎えた。
「どうもー はるっちの“カノジョ”のあいでーす! あいちゃんって呼んでね」
「あ、はい、妹の夏海です……」
うわぁ……ギャルだ……ガチでギャルだ……
おにい……こういう人って苦手だと思ってたけど……
私も、ちょっと苦手かも……
てか、彼女何人いるんだよ!
【夏海好感度バロメーター】
普通 :咲先輩(好印象だったけど、お外でエッチなことして減点)
超怖い:渚先輩
セフレ:天音先輩
要注意:ルリ先輩
ギャル:あいちゃん先輩 ←ここ
問題外:ストーカー先輩
ハイライトが入った派手な髪、ギャル風なメイクとマニュキュア、胸元を大きく開けて下着が少し見えた着こなし、不潔そうなルーズソックス。
夏海は、一目あいを見て『これはちょっとナイかな』という感じになってしまう。
言葉に詰まってしまった夏海を見て、あいがしょんぼりしてしまった。
「はるっち~なんか、うち嫌われてるっぽい(ぼそっ)」
「そんな事は無いと思い……たいけど……(ぼそっ)」
あいちゃんは、本当は凄く良い子なんだ。
ここはオレがフォローしないと。
「えっと、夏海、あいちゃんはギャルっぽく見えるけど、本当はとても優しくて友達思いで良い子なんだよ」
「えっ、うん、そうなんだ」
もしかして私……顔に出てた?
いきなりの黒ギャルだったんでビックリして、先輩に対して失礼な態度しちゃった……
人を見た目で判断しちゃダメだよね。
「あの、あいちゃん先輩は、どうやって兄と知り合ったんですか?」
「えっとぉ、ちょー好みで美味しそうだったからぁ、ラチって屋上に連れて行って~」
「ラチ……うわっ」
あいの過激な発言で、ますます夏海が引いてしまう。
「ちょっと! 折角フォローしたのに、何で勝手に自爆してるの!(ぼそっ)」
「ごめん、はるっち。つい正直に……(ぼそっ)」
「あいちゃん、自分の欲望に正直すぎるよ!(ぼそっ)」
コソコソしているようでイチャイチャに見える二人に、「はぁ」と溜め息をついた夏海が苦笑いする。
「あ、あの、二人が仲良しなのは分かります」
夏海は、二人が仲良さそうにコソコソと耳打ちし合っているのを見て、普通に仲良しカップルみたいで少し安心した。
当人たちは気付いていないのだが、さっきから二人の手が恋人つなぎしているのだ。
「おにいのエッチ!」
「何、突然?」
「なんかわかんないけど、エッチ!」
下着が見えそうな超ミニスカート、ブラが見えている大きく開けたシャツ、いかにも男性が好きそうなムチムチした艶やかなカラダ。自分には無いものを持っているあいが、兄とイチャイチャしているのを見て、何故だか理由も分からず少しだけ不機嫌になってしまう。
「私はお邪魔みたいだから帰りますね」
「おい、結局夏海は何しに来たんだよ?」
「おにいは帰省するのか聞きに来たの。どうせ彼女さんと離れたくないから帰省しないでしょ」
「まあ、しないけど……」
「やっぱりエッチ!」
妹とのやり取りを見ていたあいがニマァとエロい顔になった。
「はるっちのエッチ!」
「ちょっと、あいちゃんまで」
「あいちゃん先輩、気が合いますね」
「夏海っちの言う通り、はるっちはエッチだよね」
「そうです、兄はエッチです」
「だよねぇ」
そこだけ気が合ってしまった。
――――――――――――
その頃、アリスと忍は商店街を歩いていた。
ふと、通りを歩いていたアリスは立ち止まり、遠く離れたビルの方角を見つめる。
「アリスちゃん、何かあったの?」
不審に思った忍が、アリスと同じ方角を見る。
「いえ、何でもないです。気のせいかもしれないです」
アリスは気を取り直し、忍と一緒に通りを歩いて行く。
そこから直線距離で約300メートル離れたビルの屋上――――
「まさか……この距離でも気付いてしまうのか……」
望遠レンズを覗いていた男が呟く。
イチャイチャラブラブの春近たちを他所に、その周囲では陰謀と混沌とが迫っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます